デイビッド・グーディス

デイビッド・グーディス：ハードボイルド小説の巨匠

デイビッド・グーディス（David Goodis, 1917年3月2日 - 1967年1月7日）は、20世紀アメリカの犯罪小説界に足跡を残した作家です。彼の作品は、都市の暗部や人間の心の葛藤を鮮烈に描き出し、ハードボイルド小説のジャンルにおいて独自の地位を確立しました。

生い立ちと初期のキャリア

グーディスは、ロシア系ユダヤ人の移民を父として、フィラデルフィアで生まれました。地元の高校を卒業後、インディアナ大学とテンプル大学でジャーナリズムを学び、1938年に卒業しました。広告代理店での仕事を経て、処女小説『Retreat from Oblivion』を1939年に発表し、作家としてのキャリアをスタートさせました。

ニューヨークに移り住んだグーディスは、複数のペンネームを使い分けながら、数々のパルプ・マガジンに膨大な量の作品を寄稿しました。「バトル・エイシーズ」誌、「デアデヴィル・エイシーズ」誌、「ダイム・ミステリー」誌、「ホラー・ストーリーズ」誌、「テラー・テールズ」誌、「ウェスタン・テールズ」誌などで、一日1万語以上を書き続けたと言われています。5年半で500万語を紡ぎ出し、『ホップ・ハリガン』『ハウス・オブ・ミステリー』『スーパーマン』のラジオドラマの脚本も執筆するなど、多岐にわたる活動を展開しました。

ハリウッドでの成功と挫折

1940年代初頭には小説の売り込みに苦戦しましたが、1942年にハリウッドに渡り、ユニヴァーサル映画の脚本家として活動を始めました。1946年には、『サタデー・イブニング・ポスト』に連載された小説『Dark Passage』が出版され、ハンフリー・ボガートとローレン・バコール主演で映画化され（邦題『潜行者』）、大きな成功を収めました。

ワーナー・ブラザースとの6年契約を結び、『The Unfaithful』（サマセット・モームの『The Letter』のリメイク）の脚本を手がけましたが、彼の脚本は採用されないこともありました。レイモンド・チャンドラーの『湖の女』の映画化企画も頓挫するなど、ハリウッドでのキャリアは必ずしも順風満帆ではありませんでした。

フィラデルフィアへの帰還と晩年

1950年、グーディスは故郷のフィラデルフィアに戻り、小説の舞台とした下層社会のナイトクラブや酒場を巡る生活を送りました。1951年には、『Cassidy's Girl』がベストセラーとなり、ゴールドメダル社などのペーパーバック出版社への寄稿を続けました。

フランソワ・トリュフォー監督は、1960年にグーディスの小説『Down There』（1956年）を原作とした映画『ピアニストを撃て』を制作し、グーディスの作品に新たな光を当てました。

1967年、グーディスは肝硬変のため、50歳の若さでこの世を去りました。彼の作品は一時アメリカで絶版となりましたが、フランスでは人気作家としての地位を保ち続けました。1987年、ブラック・リザード社がグーディスの作品の再版を開始し、再び注目を集めるようになりました。

主な作品と映画化

グーディスの作品は、映画化されることも多く、以下のような作品があります。

『華麗なる大泥棒』(The Burgler, 1953)：アンリ・ヴェルヌイユ監督、ジャン＝ポール・ベルモンド主演で『LA CASSE』として映画化
『狼は天使の匂い』(Black Friday, 1954)：ルネ・クレマン監督、ロバート・ライアン主演で映画化
『ピアニストを撃て』(Down There, 1956)：フランソワ・トリュフォー監督、シャルル・アズナヴール主演で映画化
『深夜特捜隊』(Night Squad, 1961)
『潜行者』(Dark Passage, 1946)：デルマー・デイヴィス監督、ハンフリー・ボガート主演で映画化
『溝の中の月』(The Moon in the Gutter, 1953)：ジャン＝ジャック・ベネックス監督、ジェラール・ドパルデュー主演で映画化
* 『ストリート・オブ・ノー・リターン』(Street of No Return, 1954)：サミュエル・フラー監督、キース・キャラダイン主演で映画化

デイビッド・グーディスの作品は、時代を超えて、多くの読者や映画ファンを魅了し続けています。彼の描く、人間の心の奥底にある孤独や絶望、そしてかすかな希望は、現代社会にも通じる普遍的なテーマとして、私たちの心に深く響きます。

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