デジタル単一市場における著作権に関する指令

デジタル単一市場著作権指令(DSM指令)の概要

デジタル単一市場[著作権]]指令(DSM指令)は、欧州連合]加盟国における[[著作権に関する指令です。2019年4月17日に成立し、デジタル化と国際化が進む社会情勢の変化に対応するため、著作物の利用に関する例外規定の拡充、著作者への公正な報酬の保障、ひいてはデジタル著作権市場の健全化を目指しています。

指令の目的と位置付け

DSM指令の主な目的は以下の3点です。

1. デジタル化・国際化社会に対応した著作権の制限と例外規定の拡充
2. 著作物利用に係るライセンス許諾の慣行改善と、利用者にとってアクセスしやすい環境整備
3. 著作権市場の健全化(著作権者への公正な報酬の支払)

これらの目的は、2001年の情報社会指令以降、国境を越えたデジタル[著作物]]の流通が加速し、技術革新に伴い著作権市場のビジネスモデルが多様化したことを背景としています。ビデオ・オン・デマンド]、音楽ストリーミング、ニュースアグリゲーター、AI開発など、新たなビジネスモデルが台頭する中、オンラインサービス事業者、[[著作権者、一般利用者間のルール整備が課題となりました。

欧州委員会の調査によると、インターネット利用者の多くがソーシャルメディアやニュースアグリゲーターでニュース記事に触れており、記事元へのリンクをクリックせずに閲覧を完了する利用者も多いことが明らかになっています。映像・音楽コンテンツについても、インターネット経由での視聴率は高く、特に若年層の視聴頻度が高いことが示されています。

DSM指令は、既存のデジタル著作権関連指令を廃止するのではなく、強化・改正するものです。特に関係が深いのは、情報社会指令などです。

制限・例外規定の拡充

DSM指令では、著作権者の独占権を一部緩和し、第三者による著作物の自由な利用を認める制限・例外規定が拡充されました。具体的には、テキストおよびデータマイニング(TDM)、教育目的のデジタル利用、文化保存の3用途が著作権侵害に当たらない行為として明記されました。

TDMは、テキストやデータを自動解析して分析を行う手法で、科学研究機関や文化遺産機関による利用が認められています。教育目的の利用には、出典と著作者名の表示が義務付けられますが、市場での販売目的の利用は含まれません。文化遺産機関による著作物の複製も、保全・記録媒体を問わず合法とされました。

ライセンス許諾と著作物へのアクセス向上

著作権者からの許諾を得れば著作物を利用できますが、権利者や利用料が不透明な場合、著作物が社会で活用されにくくなります。そこで、著作権管理団体(CMO)の役割が重要になります。CMOは、著作権者の代わりにライセンス料の決済・分配を担い、著作権者と利用者を結びつける窓口として機能します。

DSM指令では、CMOが絶版著作物の非営利目的での複製・頒布・公衆伝達を行うための文化遺産機関との非独占ライセンス契約を締結できることが定められています。VOD型映像コンテンツ配信についても、紛争解決のための規定が設けられています。

著作権市場の健全化

DSM指令は、著作物の第三者利用による著作権者への公正な報酬支払を目指しています。しかし、第15条(リンク税)と第17条(アップロード・フィルター条項)は物議を醸しました。

報道著作物について、DSM指令では、インターネットサービス事業者が報道著作物を利用する場合、利用料を支払う義務があると規定されています。ただし、個人の私的利用、ハイパーリンクによる共有、独自の表現による引用など、一定の条件下では利用料の支払義務は発生しません。

ユーザ・アップロード型コンテンツについて、DSM指令は、プラットフォーム事業者が利用者からライセンス許諾を得るなどの権利処理を求めています。非営利目的や少額収益の場合は免責されます。ただし、引用、批判、解説、パロディなどの目的のコンテンツは自由にアップロードできると定められています。

指令成立までの流れと社会の反応

DSM指令は、欧州委員会による提案、欧州議会と欧州連合理事会での承認を経て成立しました。成立過程では、リンク税やアップロード・フィルター条項を巡り、著作権者、インターネットサービス事業者、一般利用者、人権擁護団体などから賛否両論が巻き起こりました。欧州議会と欧州連合理事会での投票では、賛成多数で可決されましたが、反対意見も少なくありませんでした。

指令成立後

2019年5月24日、ポーランド政府はDSM指令が検閲を助長し、EU諸条約に反するとして、欧州司法裁判所に抗議申し立てを行いました。DSM指令は、デジタル著作権市場の在り方について、多くの議論を呼び起こした重要な指令と言えます。

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