デチャニ修道院

デチャニ修道院：コソボに息づくセルビア正教の至宝

デチャニ修道院（Манастир Високи Дечани）は、コソボのペーチ近郊に位置するセルビア正教会の修道院です。2008年にセルビアから独立したコソボにありますが、セルビアの文化と歴史を色濃く残す重要な場所となっています。

歴史

修道院は、1327年にセルビア王ステファン・ウロシュ3世デチャンスキによって創建されました。彼は栗林の中に修道院を建設し、1330年にはその基本綱領が定められました。しかし、翌年、国王は亡くなり、修道院に埋葬されました。以後、ここは有名な巡礼地となり、国王の通り名である「デチャンスキ」は、修道院のある場所デチャニに由来しています。

建設工事は、ステファン王の死後も息子のステファン・ドゥシャンによって引き継がれ、1335年に建物が完成しました。フレスコ画の完成は1350年までかかりました。

建築と美術

「全能者ハリストス（キリスト）」に献堂された大聖堂は、赤紫色や淡黄色のレンガ、オニキス・マーブルを使用して建てられました。コトルのフランシスコ会士ウィトゥスの下、名工たちが建設に携わりました。大聖堂は、その巨大さとロマネスク様式を取り入れたデザインで、当時のセルビアの教会堂とは一線を画しています。

内部には、1000点もの肖像画を含む壮大なフレスコ画が描かれており、新約聖書の重要な場面が網羅されています。また、14世紀のオリジナルのイコノスタシスや典院の座、彫刻が施されたステファン王の石棺など、貴重な遺産が残されています。

世界遺産と危機

2004年、ユネスコの世界遺産委員会は、デチャニ修道院の優れたパレオロゴス朝ルネサンス様式のフレスコ画や、ビザンチン様式のドーム、初期ゴシック様式の窓、ロマネスク様式の柱など、東西の様式が融合した建築を高く評価し、世界遺産に登録しました。2006年には、「コソボの中世建造物群」として登録範囲が拡大されましたが、セルビア政府による弾圧やアルバニア系武装勢力による攻撃の可能性から、危機遺産リストにも登録されています。現在、修道院はKFOR（コソボ治安維持部隊）によって警備されています。

近年の出来事

2007年3月には、修道院の近くで爆発事件が発生しました。修道院長は、爆発が手榴弾によるものであったこと、修道士とKFORに宛てた脅迫状が送られてきたことを発表しました。また、アルバニア人によるロケット砲の打ち込み事件も発生しており、その跡が壁に残っています。修道院士が外出する際には、防弾仕様の車を使用し、銃撃を避けるために車の配置を頻繁に変更するなど、厳戒態勢が敷かれています。しかし、2009年には、セルビア人とアルバニア人が互いの文化を学び、理解を深めるためのツアーが修道院で開催されるなど、和平に向けた動きも見られています。

関連項目

コソボの中世建造物群
ペーチ総主教修道院
リェヴィシャの生神女教会
グラチャニツァ修道院

デチャニ修道院は、紛争の歴史を乗り越え、文化と宗教の架け橋となるべく、今日もその存在意義を示し続けています。

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