デッラ・カーザ氏の肖像

ヤコポ・ダ・ポントルモによって1541年から1544年頃に制作された油彩画『デッラ・カーザ氏の肖像』は、イタリアのマニエリスム美術を代表する作品の一つです。この絵画は、かつて『ニッコロ・アルディンゲッリの肖像』として知られていましたが、現在の研究では、ルネサンス期の著述家であり、『ガラテオ』の著者として知られるジョヴァンニ・デッラ・カーザを描いたものと考えられています。

ポントルモは、フィレンツェのマニエリスムの主要な画家の一人で、その独特の画風と、人物の内面を深く掘り下げる描写力で知られています。『デッラ・カーザ氏の肖像』も、その特徴がよく表れており、モデルの落ち着いた表情や、繊細な筆致による衣服の表現が印象的です。背景はシンプルながらも、人物の存在感を際立たせる役割を果たしています。

この作品の歴史を振り返ると、20世紀初頭の1909年にパリで売却されるまで、フィレンツェのバルガーリ侯爵のコレクションに所蔵されていました。当時はセバスティアーノ・デル・ピオンボの作品とされていましたが、その後、さまざまな所有者の手を経て、1922年にアレッサンドロ・コンティーニ・ボナコッシによって購入されました。

アレッサンドロ・コンティーニ・ボナコッシは、イタリア美術のコレクターとして知られ、この作品の価値を高く評価していました。しかし、1952年にはサミュエルH.クレス財団に売却され、最終的には1961年にワシントンのナショナル・ギャラリーに収蔵されることとなりました。現在は、その優れた芸術性と歴史的価値から、多くの人々に鑑賞されています。

この肖像画は、単なる人物画としてだけでなく、当時の社会や文化、そしてポントルモの卓越した技術を知る上で重要な資料となっています。また、かつては別人とされていた人物が、その後の研究で特定される過程も、美術史における研究の進展を示す良い例と言えるでしょう。

『デッラ・カーザ氏の肖像』は、ポントルモの繊細な筆致と、人物の深淵な内面を映し出すマニエリスム美術の傑作として、これからも多くの人々を魅了し続けるでしょう。

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