デトロイト包囲戦

デトロイト包囲戦：米英戦争初期における屈辱的な降伏

1812年8月15日から16日にかけて、デトロイト包囲戦（またはデトロイトの降伏、デトロイト砦の戦い）が発生しました。この戦いは、米英戦争の初期段階における重要な出来事であり、アメリカ軍にとって大きな痛手となりました。アイザック・ブロック少将率いるイギリス軍正規兵と、ショーニー族の指導者テカムセが率いる同盟インディアン連合部隊は、巧みな脅しと策略を用いて、アメリカ軍のウィリアム・ハル准将を降伏に追い込み、デトロイトの砦と町を占領しました。アメリカ軍は兵力で勝っていたにも関わらず、この降伏により士気が大きく低下しました。

戦闘の背景

アメリカ軍の作戦と動き

1812年、アメリカとイギリスの関係が悪化する中、ジェームズ・マディソン大統領は、北西部領土の安全確保を求められていました。この地域では、イギリスの代理人や毛皮交易会社がインディアン部族をアメリカに対して扇動していました。特にデトロイトの防衛強化が急務であり、またアッパー・[[カナダ]]侵攻も計画されていました。

マディソンは、アメリカ独立戦争のベテランであるウィリアム・ハルを軍の指揮官に任命しました。ハルは当初、この任務を躊躇しましたが、最終的には准将として着任しました。ハルの軍は、オハイオ州民兵の3個連隊とアメリカ第4歩兵連隊で構成されましたが、装備や規律に問題があり、ハルは急遽装備を整える必要がありました。

ハルは、デトロイトへの行軍ルートとして、アンソニー・ウェインが使用したルートを避け、ブラック湿地を横断する新しいルートを選択しました。また、物資や病人を運ぶため、貨物船カヤホガをエリー湖経由で派遣しました。しかし、このカヤホガは、戦争開始を知らないまま、デトロイト川河口でイギリス軍に捕獲されました。

ハルの部隊は7月5日にデトロイトに到着しましたが、物資不足に悩まされ、特に食料が不足していました。彼はユースティス長官からアマーストバーグ攻撃を急かされましたが、イギリス軍が水域とインディアンを支配していることを認識していました。7月12日、ハル軍はカナダに侵入しましたが、地元住民からの支援は少なく、カナダでの作戦は行き詰まりました。

イギリス軍の動き

7月17日、イギリス軍はヒューロン湖のマキナック島を占領しました。これにより、デトロイト周辺のワイアンドット族がアメリカに対して敵対的になりました。ハルはマキナック島の陥落を知り、カナダ領内の陣地を放棄しました。さらに、補給線もイギリス軍の支配下にあり、インディアンによる襲撃の危険性がありました。

8月4日、ブラウンズタウンの戦いで、テカムセ率いるインディアン部隊がアメリカ軍を待ち伏せして壊滅させました。ハルは通信線を確保しようとしましたが、マグアガの戦いでイギリス軍とインディアン部隊に大きな損害を出し、退却せざるを得ませんでした。

一方、アッパー・[[カナダ]]のイギリス軍指揮官アイザック・ブロック少将は、アメリカ軍が戦力が分散している状況を認識し、デトロイト攻略を決意しました。彼はテカムセと信頼関係を築き、インディアン部隊との協力を確実なものにしました。また、イギリス軍の兵力を誇張する情報戦略を用い、ハルを心理的に追い詰めました。

ブロックはハルに対し、降伏勧告書を送りました。「もし戦闘が開始されれば、多数のインディアンを制御できなくなるだろう」と脅迫し、アメリカ軍に動揺を与えました。さらに、兵士のたき火を増やしたり、行進と退却を繰り返すことで、イギリス軍の兵力が実際よりも多く見えるように偽装しました。

戦闘の展開

8月15日、イギリス軍はデトロイト川のカナダ岸に砲台を築き、デトロイト砦への砲撃を開始しました。翌朝、テカムセの戦士たちが川を渡り、ブロックの部隊も渡河しました。ブロックは当初、ハルの供給線を遮断して砦を飢えさせる作戦を立てていましたが、ハルが分遣隊を派遣していることを知り、急遽デトロイト砦の背後に回りました。

テカムセの戦士たちは、森の中で何度も行進し、鬨の声を上げることで、アメリカ兵に大きな圧力をかけました。この時、テカムセが部隊を大きく見せる作戦を提案したという説もあります。

降伏

イギリス軍の砲撃による被害が増え、インディアンの鬨の声を聞いたハルは、絶望的な状況を悟りました。砦には女性や子供もおり、惨殺されることを恐れたハルは、部下の意見を聞かずに降伏を決意しました。ハルは、3日間の猶予を求めましたが、ブロックは3時間しか認めませんでした。これにより、ハル軍全体が降伏することになりました。ハルが降伏前に酔っていたという噂も残っています。

戦果と損失

降伏前、イギリス軍の砲撃でアメリカ軍士官2名と兵士5名が戦死しました。イギリス軍側は砲手2名が負傷しました。ハルの降伏後、オハイオ州民兵1600名は釈放され、アメリカ軍正規兵582名は戦争捕虜としてケベックに移送されました。イギリス軍は、大砲30門、ライフル銃300挺、マスケット銃2500挺などの戦利品を手に入れました。

戦いの影響

デトロイトでのアメリカ軍の降伏は、両軍に大きな影響を与えました。アメリカ側では、インディアン部族がアメリカ人開拓地を襲撃し、軍事基地を孤立させました。アッパー・[[カナダ]]では、住民と民兵が勇気づけられ、ブロックは民兵に報奨を与えました。また、ハル軍から捕獲したマスケット銃を民兵に支給しました。

イギリス軍はデトロイトを約1年間支配し、ブロックは英雄として称えられました。しかし、その後のクィーンストン・ハイツの戦いでブロックは戦死しました。ハルは軍法会議にかけられ死刑を宣告されましたが、その功績からマディソン大統領によって減刑され、軍から追放されました。

アメリカ軍は、エリー湖の湖上戦での勝利をきっかけに形勢を逆転させ、イギリス軍はデトロイトから撤退を余儀なくされました。ハルの後継者であるウィリアム・ハリソンはイギリス軍を追撃し、テムズの戦いで勝利し、テカムセは戦死しました。

記念碑

イギリス第41連隊は、デトロイトでの功績を称えられ、米英戦争で表彰された数少ない連隊の一つとなりました。アメリカ第4歩兵連隊から奪った軍旗は、ウェルチ連隊博物館に展示されています。また、ハルの部隊に参加した部隊の後継部隊が現在もアメリカ陸軍に存在します。2012年、カナダ造幣局は、テカムセの肖像を刻んだ25セント硬貨を発行しました。

このデトロイト包囲戦は、米英戦争における初期の重要な戦いであり、アメリカ軍の不手際とイギリス軍の戦略が交錯した結果、大きな歴史的転換点となりました。

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