テムズの戦い

テムズの戦い：米英戦争における重要な転換点

テムズの戦い（またはモラビアタウンの戦い）は、1813年10月5日に現在のカナダ・オンタリオ州チャタム近郊で発生した、米英戦争における重要な戦闘です。この戦いは、アメリカとイギリスが北西部領土の支配権を争い、それぞれの同盟先である先住民部族も加わった代理戦争の様相を呈しました。

戦いの背景

1813年9月、オリバー・ハザード・ペリー率いるアメリカ海軍がエリー湖の戦いでイギリス海軍に決定的な勝利を収めました。これにより、イギリス軍のヘンリー・プロクター将軍は補給線を断たれることを恐れ、同盟していた先住民の英雄テカムセの助言を無視してマルデン砦から撤退を開始しました。アメリカ軍のウィリアム・ハリソン将軍は、プロクター軍を追撃しアッパー・カナダに進軍しました。テカムセは何度もプロクターにアメリカ軍と戦うよう説得しましたが、最終的にプロクターはテムズ川沿いのモラビアタウンでハリソン軍と対峙することになりました。

戦力

アメリカ軍は、ウィリアム・ハリソン将軍の指揮下、正規兵と民兵合わせて少なくとも3,500名の兵力を有していました。リチャード・メンター・ジョンソン大佐がケンタッキー騎兵隊を率い、ケンタッキー民兵はアメリカ独立戦争の英雄アイザック・シェルビーが指揮しました。対するイギリス軍は、プロクター将軍の指揮下に約800名の正規兵と、テカムセ率いる約500名の先住民戦士がいました。イギリス軍兵士の士気は低下しており、プロクターが積極的に戦おうとしなかったため、先住民戦士たちは不満を募らせていました。

戦闘の経過

10月4日、テカムセ率いる先住民戦士たちはアメリカ軍と小競り合いを行い、その進軍を遅らせようとしました。しかし、アメリカ軍に圧倒され、プロクターの副官は物資や弾薬を奪われる結果となりました。翌10月5日、プロクターはモラビアタウンで陣を敷き、大砲でアメリカ軍を川の堤に追い込もうとしました。一方、ショーニー族の戦士たちは沼地に集結し、アメリカ軍の側面を攻撃しようとしました。ハリソン将軍は戦場を視察し、ジェイムズ・ジョンソン（リチャード・メンター・ジョンソンの弟）にイギリス軍正面からの攻撃を命じました。ジョンソンは先住民の側面攻撃をものともせず突破し、イギリス軍の大砲を無力化しました。プロクターとイギリス軍はすぐに撤退を開始し、多くの兵士が降伏しました。しかし、テカムセ率いる先住民戦士たちは最後まで戦い続けました。

リチャード・ジョンソンは20騎の騎兵を率いて先住民に攻撃を仕掛けましたが、テカムセ率いるショーニー族のマスケット銃の一斉射撃に阻まれ、大きな損害を出しました。ジョンソン自身も銃弾を5発受けました。この戦闘で英雄テカムセが戦死しました。テカムセを殺害したのはジョンソン大佐であるとの説がありますが、確たる証拠はありません。ウィリアム・ホワイトリーというアメリカ独立戦争の古参兵が、テカムセを殺害したという説もあります。

アメリカ軍が沼地を制圧し、ジェイムズ・ジョンソン部隊はイギリス軍の反撃から逃れることができました。アメリカ軍の増援が到着し、テカムセの戦死が伝わると、先住民の抵抗は急速に弱まりました。戦闘後、アメリカ軍の白人騎兵隊はモラビアタウンを焼き払いました。この町はキリスト教マンシー族の平和な集落であり、戦闘には全く関与していませんでした。

戦いの結果

イギリス軍は12名が戦死、35名が負傷後に捕虜となり、442名が降伏しました。先住民戦士は33名が戦死しました。一方、アメリカ軍の損害は、主に先住民との戦闘によるものでした。テムズの戦いはアメリカ軍の決定的な勝利に終わり、米英戦争終結までアメリカ軍が北西部領土を支配することとなりました。戦後、ウィリアム・ハリソンは白人社会で人気を博し、後にアメリカ合衆国大統領に選出されました。リチャード・メンター・ジョンソンは、テカムセを殺害したという噂を背景に、アメリカ合衆国副大統領になりました。プロクターは臆病な振る舞いを理由に軍法会議にかけられ、指揮官の任を解かれました。テカムセの戦死は、先住民の同盟を大きく弱体化させ、その後の戦闘に大きな影響を与えました。北西部領土を領有していた先住民部族は、この戦いで永久にその領土を失うこととなりました。

テムズの戦いは、アメリカ史において重要な転換点となりました。この戦いの勝利は、アメリカ合衆国の領土拡大と、先住民社会の衰退を象徴する出来事として、歴史に刻まれています。

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