デニス・ブレイン

デニス・ブレイン：夭折の天才ホルン奏者

デニス・ブレイン(1921年5月17日-1957年9月1日)は、20世紀を代表するホルン奏者の一人として、今日なお世界中で高く評価されています。その短い生涯は、類まれな才能と惜しまれる早逝によって彩られました。

名門ホルン一家と音楽教育

ブレイン家は代々ホルン奏者を輩出してきた名門一家でした。祖父や伯父たちもホルン奏者であり、彼の父、オーブリー・ブレインはBBC交響楽団の首席ホルン奏者として活躍する著名な人物でした。デニスはそんな音楽一家に生まれ、幼少期からホルンに囲まれた環境で育ちました。セントポールスクールと王立音楽院でホルンを学び、王立音楽院では父オーブリーから直接指導を受けました。ホルンに加えオルガンも修めた彼は、父オーブリーと共演するなど、早くから音楽活動をスタートさせています。例えば、1939年のモーツァルトのディヴェルティメント第17番の録音には、レナー弦楽四重奏団と共にブレイン親子が共演しています。

ソリストとしての華々しいデビューと戦争体験

デニス・ブレインのソリストとしてのキャリアは、ベンジャミン・ブリテンの『テノール、ホルンと弦楽器のためのセレナーデ』の初演と録音から始まりました。この作品はブレインとテノール歌手のピーター・ピアーズのために書かれたもので、ブレインの優れた技術と表現力は、この作品を通して広く知られることとなりました。

21歳という若さで、シドニー・ビーア率いるロンドン・ナショナル交響楽団の首席ホルン奏者に就任。チャイコフスキーの交響曲第5番やファリャの『三角帽子』などの録音に参加し、その際立った音色で聴衆を魅了しました。

第二次世界大戦中は英国空軍に徴兵され、イギリス空軍中央軍楽隊の首席ホルン奏者を務めました。戦時中にも、ピアニストのデニス・マシューズとのベートーヴェンのホルンソナタの録音を残すなど、演奏家としての活動を継続しました。

戦後の活躍と悲劇的な死

終戦後、ブレインはフィルハーモニア管弦楽団とロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団の両方の首席ホルン奏者に就任しました。これは、当時のロンドンのオーケストラ事情、すなわち複数のオーケストラが演奏家を共有するシステムがあったため可能でした。しかし、1954年には両立が困難となり、ロイヤル・フィルを離れることになります。

1957年9月、エディンバラ音楽祭からの帰路、交通事故により36歳という若さで亡くなりました。彼の愛車、トライアンフTR2が樹木に衝突するという悲劇でした。事故前日には、リヒャルト・シュトラウスのオペラ『カプリッチョ』の録音に参加する予定でした。彼の死は音楽界に大きな衝撃を与えました。フランシス・プーランクは、ブレインを悼んで『ホルンとピアノのためのエレジー』を作曲しました。

輝かしいレコーディング

デニス・ブレインは、数々の名曲を録音に残しています。リヒャルト・シュトラウスのホルン協奏曲2曲、モーツァルトのホルン協奏曲4曲、モーツァルトのホルン五重奏曲、ヒンデミットのホルン協奏曲、ブラームスのホルン三重奏など、彼の演奏は多くの音楽愛好家に愛され続けています。彼の網羅的なディスコグラフィは、国際ホルン協会のウェブサイトで公開されています。

レガシー

短くも華々しい生涯を送ったデニス・ブレイン。彼の卓越した演奏は、数多くの録音を通して現在も聴くことができます。彼の死後も、彼は世界中のホルン奏者にとって、永遠の模範であり続けているのです。事故で損傷した彼の愛用していたアレクサンダー社のホルンは修復され、王立音楽アカデミーに展示されています。そのホルンは、彼の偉大な功績を後世に伝える、貴重な遺産と言えるでしょう。

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