デニス・ロバートソン

デニス・ロバートソン（Dennis Holme Robertson、1890年 5月23日 - 1963年 4月21日）は、20世紀半ばに活躍したイギリスの著名な経済学者です。主にケンブリッジ大学でそのキャリアを築き、経済学部の教授としてアーサー・セシル・ピグーの後を継ぎました。思想的には敬愛するジョン・メイナード・ケインズと親交が深かったものの、経済理論、特に貨幣や景気循環に関する考察においては独自の立場を貫き、活発な議論を展開しました。その明晰な論理と洗練された文章は高く評価され、名文家としても知られています。

生い立ちと教育

ロバートソンは1890年、サフォーク州ロウストフトに6人兄弟の末っ子として生を受けました。若くして才能を示し、12歳で名門イートン・カレッジに入学。その後、ケンブリッジ大学のトリニティ・カレッジに進み、最初は古典学を専攻しました。しかし、大学在学中に経済学へと関心を移し、1910年に専攻を変更します。この転向は、彼のその後の輝かしい学術キャリアの始まりとなりました。1912年には、経済学の上級学位を首席で取得し、そのままケンブリティ・カレッジで研究生活に入ります。

キャリアと主要な著作

1914年からケンブリッジ大学トリニティ・カレッジで教鞭を執り始めたロバートソンは、翌1915年には早くも初期の代表作となる『産業変動の研究』を著しました。この著作では、主に経済の「実物」面に焦点を当てた景気変動分析を展開しています。しかし、第一次世界大戦が勃発すると、ロバートソンはエジプトやパレスティナで軍務に就き、一時的に研究から離れることになります。

戦後ケンブリッジに戻った彼は、研究の中心を貨幣経済論へと移しました。1922年に初版が出版された『貨幣』や、1926年の『銀行政策と価格水準』といった著作群は、彼の貨幣面からの経済分析の深化を示すものです。これらの研究を通じて、彼は貨幣数量説や信用創造のメカニズム、物価水準との関連など、貨幣が経済に与える影響を理論的に明らかにしようと試みました。

一時、ケンブリッジを離れ、1938年からロンドン大学で銀行論の教授を務めましたが、第二次世界大戦が始まると、1939年から1944年にかけて大蔵省での勤務に就き、戦時経済政策に関与しました。戦後の1944年には、長年の師であり先駆者であったピグーの後任として、ケンブリッジ大学経済学部の教授に就任し、再びアカデミックな中心へと戻りました。1948年から1950年には王立経済学会の会長を務めるなど、イギリス経済学界における重鎮としての地位を確固たるものとしました。1957年にはケンブリッジ大学の名誉教授となり、後進の指導にも力を注ぎました。

ケインズとの関係

デニス・ロバートソンは、同時代の最も影響力のある経済学者の一人であるジョン・メイナード・ケインズと、終生にわたり深い親交を結んでいました。個人的な関係は良好であり、互いに敬意を払っていましたが、経済理論、特に『雇用・利子および貨幣の一般理論』以降のケインズの新しい理論体系に対しては、批判的な立場をとることが少なくありませんでした。ロバートソンは、ケインズの理論が過度に抽象的であると感じたり、自身の持つより「大陸的」とも評される実体経済や貨幣の供給側の要因を重視する視点と相容れない部分があると考えたりしていました。このため、『貨幣論』の発表を挟んで、ケインズとは貨幣の定義や貯蓄・投資の関係、利子率の決定要因などを巡って活発な論争を繰り広げました。この論争は、当時の経済学界において大きな注目を集め、マクロ経済理論の発展に重要な影響を与えました。

死去

デニス・ロバートソンは、1963年 4月21日、ケンブリッジで心臓発作によりその生涯を閉じました。彼の残した業績は、景気循環や貨幣経済に関する研究、そしてケインズとの知的対話を通じて、今日のマクロ経済学の基盤を形成する上で重要な役割を果たしています。また、その優れた文章力は、経済学の複雑な概念を明確かつ魅力的に表現する手本として、多くの研究者や学生に影響を与え続けています。

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