デビッド・ジョーンズ (パンアメリカン航空)

デビッド・ジョーンズ：パンナム広報担当者が魅せた相撲愛

デビッド・ジョーンズ（David Mifka Jones, 1915年7月11日 - 2005年2月2日）は、かつてパンアメリカン航空（パンナム）の極東地区広報担当支配人を務めた人物です。しかし、彼が日本で広く知られるようになったのは、その職務ではなく、大相撲の幕内最高優勝力士表彰式での独特なパフォーマンスでした。彼のユーモアと、日本の文化に対する深い愛情は、多くの人々の心を捉えました。

生い立ちと日本との出会い

1915年、ジョーンズは軍人の父が駐留していたフィリピンで生まれ、その後、サンフランシスコで育ちました。カリフォルニア大学バークレー校で経済学を専攻し、卒業後は教師や新聞記者として働きました。この時期に、日系人の強制収容を目撃したことが、彼が日本に関心を抱くきっかけとなりました。

パンナムでの来日と相撲との出会い

1955年、ジョーンズはパンナムに入社し、同年10月に極東地域広報担当支配人として来日しました。来日後、能や歌舞伎、雅楽といった日本の伝統文化に触れる中で、特に彼が関心を抱いたのが相撲でした。パンナムは、1953年から幕内最高優勝力士に「パンアメリカン航空賞」を贈っており、ジョーンズは1956年1月場所で相撲を観戦しました。当初、表彰式の賞授与は別の担当者が行っていましたが、その担当者が退職したため、ジョーンズが後任として引き継ぐことになりました。

表彰式でのパフォーマンス

1961年5月場所から、ジョーンズは賞の贈呈を担当することになりました。彼は、観客が表彰式に退屈している様子を見て、わざと大声で「ヒョー・ショー・ジョウ!」と読み上げ、注目を集めました。翌場所からは和装で登場し、呼出の助けを借りずに一人でトロフィーを持つなど、式典に独自のスタイルを取り入れました。東京場所では、わざと読み間違えたり、噛んだりすることもあったそうですが、大阪や名古屋、福岡など地方場所では、現地の方言で表彰状を朗読しました。これらの行動は、観客を大いに楽しませました。

ジョーンズの表彰は、千秋楽の注目行事となり、彼が土俵に上がると、観客は静まり返って、彼の独特な抑揚を交えた表彰状の朗読に耳を澄ませました。身長163cmと小柄なジョーンズが、42kgもある巨大なトロフィーを抱え上げると、観客からは「よいしょっ!」という声援が飛び交いました。NHKの中継放送でも、ジョーンズの登場場面は特別扱いとなり、パンナムの知名度も高まりました。

相撲以外の広報活動

ジョーンズの功績は、相撲だけにとどまりません。彼は能や歌舞伎、雅楽といった日本の古典芸能の海外公演を実現させ、東京オリンピックの誘致活動にも貢献しました。また、TBSと共同で企画した紀行番組『兼高かおる世界の旅』では、パンナムの支店網を活用して集めた世界の最新情報を紹介し、日本人の海外旅行に対する関心を高めました。

パンナムが協賛したテレビ番組や映画にも多数出演しており、その一つである映画『アルプスの若大将』では、パンナムのクルー役を演じた星由里子の上司役として、ジョーンズ自身も出演しています。また、劇中には、彼の名台詞である「ヒョー・ショー・ジョウ!」のシーンも登場します。

パンナム退職後も続いた表彰式

ジョーンズは、パンナムを退職した後も、相撲の表彰式への出席を続けました。1972年7月場所で、アメリカ出身の高見山が優勝した際には、フランクフルトでの会議を中座して日本に戻り、表彰式に出席しました。また、1973年1月場所では、トロフィーを落として転倒するというハプニングもありましたが、そのユーモアで観客を沸かせました。

1981年には、ジョーンズの表彰式出席20年を記念する会が開催され、400人もの人々が集まりました。また、1982年にはNHKの朝ドラ『ハイカラさん』にも出演するなど、多才な一面を見せました。

引退と晩年

しかし、パンナムの業績は悪化し、1985年には太平洋路線をユナイテッド航空に売却し、日本から撤退することになりました。ジョーンズは、賞も中断されると考えていましたが、昭和天皇が賞に言及したことがきっかけとなり、賞は継続されることになりました。数度の中断の危機を乗り越えながら続けられてきた表彰式でしたが、ジョーンズも体力的な限界を感じ、1991年に引退を表明しました。引退後、ジョーンズは、長年勤務したパンナムへの感謝の思いを込めて、最後の「ヒョー・ショー・ジョウ！」を披露しました。そして、同年12月4日にパンナムは破産しました。

引退後も日本に住み続ける意向を示していたジョーンズでしたが、1992年に脳梗塞で倒れ、アメリカに帰国しました。2005年、心不全のためネブラスカ州オマハで亡くなりました。享年89歳でした。

デビッド・ジョーンズは、その独特なユーモアと、日本の文化に対する深い愛情で、多くの人々に愛されました。彼の名前は、相撲史だけでなく、日本の大衆文化史にも深く刻まれています。

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