デルフィン (特殊潜航艇)

幻の特殊潜航艇「デルフィン」：ドイツ海軍が描いた水中高速艇の夢

第二次世界大戦末期、ドイツ海軍は劣勢を挽回すべく、様々な特殊兵器の開発を推し進めました。その中でも異彩を放つのが、高速性を追求した特殊潜航艇「デルフィン」です。本艇は、ネガーやモルヒといった既存の潜航艇の速度不足を解消し、大規模な護衛船団への攻撃を可能にすることを目指して開発されました。

デルフィンI：高速水中艇の試作

1944年5月、ドイツ海軍は新型潜航艇の開発に着手し、同年秋には試作艇が完成しました。この試作艇は「デルフィン（イルカ）」と名付けられ、後に「デルフィンI」と呼ばれるようになります。全長5.78m、排水量2.8tという非常にコンパクトな艇体は、水中での高速性を重視した涙滴型を採用していました。

艇内部は、前部が操縦室、後部が機関室という構成でした。機関には、当時使用されていたG7e魚雷のものを流用することで、開発期間の短縮とコスト削減を図っています。艇体上部には、プレキシガラス製の観測窓が設けられ、そのすぐ後方には、電磁式閉鎖弁とフットスイッチによる緊急閉鎖機構を備えたシュノーケルが装備されました。

デルフィンIの最大の特徴は、構造簡略化のためにバラストタンクを装備せず、魚雷のように航走することで浮力を得るという、他に類を見ないシステムを採用した点です。しかし、このシステムは、一度発進すると機関の停止が不可能になるという、運用上の大きな制約を生むことになりました。

当初、ドイツ海軍はデルフィンIの頭部に500kg弾頭を搭載し、日本海軍の「回天」のような特攻艇として運用することを想定していました。しかし、最終的にはG7e魚雷1本または500kgの曳航式機雷を艇体下部に装備する形に落ち着きました。

試作艇は、期待通り、従来の潜航艇をはるかに上回る水中運動性を示しました。しかし、量産型に搭載予定だったクローズドサイクル機関の開発が遅延。さらに、1945年2月にはガソリン不足が深刻化し、ガソリンを燃料とする機関の開発中止が決定されたため、デルフィンIが量産されることはありませんでした。

デルフィンII：大型化による性能向上

デルフィンIの良好な性能を受け、1944年9月頃から、拡大型である「デルフィンII」の開発が検討されました。デルフィンIIは、デルフィンIの量産型と同じクローズドサイクル機関、またはゼーフントと同じ機関を搭載することが計画されていました。

デルフィンIIには、乗員1名のタイプと2名のタイプが存在し、クローズドサイクル機関搭載型の場合、1名型は水中18kt、2名型は水中16ktの速度を発揮することが期待されていました。デルフィンIは「小型デルフィン」、デルフィンIIは「大型デルフィン」と呼ばれることもありました。

デルフィンが物語るもの

デルフィンは、革新的な設計思想と高いポテンシャルを持ちながらも、時代の波に翻弄され、実戦投入されることのなかった悲運の兵器と言えるでしょう。しかし、その開発過程で得られた技術や経験は、戦後の潜水艦開発に少なからず影響を与えたと考えられます。デルフィンは、第二次世界大戦末期の混乱の中で生まれた、幻の水中高速艇として、その名を歴史に刻んでいます。

性能諸元

デルフィンI（量産型・計画値）

全長: 5.78m
排水量: 2.8t
機関: クローズドサイクル機関
速力: 14kt
武装: G7e魚雷1本または500kgの曳航式機雷

デルフィンII（計画値）

全長: 8m
排水量: 8t
機関: クローズドサイクル機関または電動機
速力: 18kt（クローズドサイクル機関・1名型）または14kt（電動機）
乗員: 1名または2名

関連項目

ドイツ海軍小型戦闘部隊

外部リンク

uboat.net（英語）

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