デヴィッド・ギルモア (アルバム)

デヴィッド・ギルモア (David Gilmour) - ソロ・アルバム

1978年、著名なロックバンド、ピンク・フロイドのギタリストとして世界的に知られるデヴィッド・ギルモアが、自身の名を冠した記念すべき初のソロ・アルバムを発表しました。この作品はリリース後、全英チャートで17位、全米チャートでは29位という商業的な成功を収めています。

このソロ作品が誕生した背景には、当時のピンク・フロイドが置かれていた特別な状況があります。1977年夏にアルバム『アニマルズ』に伴う大規模なコンサートツアーが幕を閉じた後、バンドとしての公式な活動は事実上休止状態に入っていました。バンドの主要なソングライターでありリーダー格のロジャー・ウォーターズは、ツアー終了後にフランスの田舎で seclusion し、新たな楽曲の創作に深く集中していました。これを受けて、他のメンバー、特にデヴィッド・ギルモアやキーボード奏者のリック・ライトは、この期間を利用して各自の音楽的なアイデアや表現を形にするため、ソロ活動に力を入れることを選択しました。

デヴィッド・ギルモアは、自身のソロ・デビュー作となる本作の制作にあたり、彼がピンク・フロイドに加入するよりも以前に共に音楽活動を行っていた旧友のミュージシャンたちをレコーディングに招集しました。これにより、気心の知れた仲間とのリラックスした雰囲気の中で、自由な音楽制作が進められたと言われています。また、このアルバムには、著名な詩人でありミュージシャンでもあるロイ・ハーパーが楽曲制作に参加しており、ギルモアとの共作によるナンバーも収録されています。レコーディングのほとんどは、フランス国内にあるスタジオで行われました。

アルバムに収められた楽曲は、デヴィッド・ギルモア独特の叙情的かつ力強いギタープレイが中心に据えられた、全体的にややハードなロック色の強いサウンドが特徴です。彼の代名詞とも言える、泣きのギターとも称されるトーンやフレーズが存分に堪能できる内容となっています。ギルモア自身は、このソロ・アルバムを制作した理由について、当時のピンク・フロイドが追求していた極めて緻密で時に息苦しささえ感じさせる完璧主義的なアプローチから一時的に解放されるための「解毒剤（Antidote）」であったと後に語っています。バンドの枠を超え、より直感的でパーソナルな音楽表現を追求した結果と言えるでしょう。

なお、このアルバムの発表後、デヴィッド・ギルモアは本作のための大々的なコンサートツアーを行うことはありませんでした。これは、おそらく次のピンク・フロイドとしての活動への準備や、当時の音楽シーンにおける様々な要因が影響していたと考えられます。しかし、本作はギルモアのソロアーティストとしての道を切り開くと同時に、ピンク・フロイドのサウンドとは一線を画す、彼の個性あふれる音楽性をリスナーに提示した重要な作品として位置づけられています。

収録曲

1. ミハリス / Mihalis (composed by David Gilmour)
2. ゼアーズ・ノー・ウェイ・アウト・オブ・ヒア / There's No Way Out of Here (composed by Ken Baker)
3. クライ・フロム・ザ・ストリート / Cry from the Street (composed by David Gilmour & Eric Stewart)
4. ソー・ファ-・アウェイ / So Far Away (composed by David Gilmour)
5. ショート・アンド・スウィート / Short and Sweet (composed by David Gilmour & Roy Harper)
6. レイズ・マイ・レント / Raise My Rent (composed by David Gilmour)
7. ノー・ウェイ / No Way (composed by David Gilmour)
8. デフィニトリー / Deafinitely (composed by David Gilmour)
9. アイ・キャント・プリーズ・エニモア / I Can't Breathe Anymore (composed by David Gilmour)

主な参加ミュージシャン

デヴィッド・ギルモア (David Gilmour): リード・ボーカル、エレクトリックギター、アコースティックギター、ラップスティールギター (⑦⑨)、ピアノ (④)、オルガン (②③⑤⑥⑦⑧⑨)、シンセサイザー (⑦⑨)、ハーモニカ (②)
リック・ウィルス (Rick Wills): ベース、ボーカル
ウィリー・ウィルソン (Willie Wilson): ドラムス、パーカッション
ミック・ウィーヴァー (Mick Weaver): ピアノ (④)
カーリーナ・ウィリアムス (Carlena Williams): バッキング・ボーカル (②④)
デビー・ドス (Debbie Doss): バッキング・ボーカル (②④)
* シャーリー・ローデン (Shirley Roden): バッキング・ボーカル (②④)

このアルバムは、デヴィッド・ギルモアの多才な楽器演奏能力と、ピンク・フロイドの枠にとらわれない自由な音楽的探求心を示す作品として、彼のソロ・キャリアの基礎を築きました。

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