デ・ハビランド DH.60 モス

デ・ハビランド DH.60 モス (de Havilland DH.60 Moth)

デ・ハビランド DH.60 モスは、イギリスの航空機メーカー、デ・ハビランド・エアクラフトによって製造された複座の複葉機です。この機体は、1920年代の航空の黎明期において、個人や民間飛行クラブが手が届く価格で提供され、大きな魅力を持っていました。その成功は、現代における個人航空の発展の基盤を築いたといえるでしょう。「モス」という名称は、英語で「蛾」を意味します。

概要

デ・ハビランド DH.60 モスは、既存の三座複葉機DH.51の小型版として設計されました。試作機は1925年の2月22日に、創業者のジェフリー・デハビランドによって初めて空に舞い上がりました。イギリス航空省は、早くも初飛行からわずか5ヶ月後に5つの飛行クラブにこの機体を導入することを決定し、最初のモスはランカシャー・エアロ・クラブに引き渡されました。

その後、モスは輸出面でも成功を収め、様々な国の軍にも採用されるようになりました。また、多くの記録飛行を打ち立てることで、多くの人々に愛される存在となりました。アメリカ、フランス、オーストラリア、フィンランドでは、ライセンス生産も行われ、世界中で広がりを見せました。

モスのデザインは、上下に食い違いのない複葉主翼を備えており、特に格納や運搬において利便性が考慮され、折り畳むことができる構造が特徴的です。機体は全て木製の骨組みで、合板や羽布が使用されています。この設計は、軽量でありながらも堅固な仕上がりになっています。また、主脚の代わりにフロートを装備するオプションも存在していました。

初期モデルはシーラス・エンジンを搭載していたため、しばしば「シーラス・モス」と呼ばれましたが、その後はエンジンの種類によって「ジェネット・モス」や「ジプシー・モス」などに名称が変更されました。さらに、軍用バージョンであるDH.60Tモス・トレーナーは後にDH.82タイガー・モスへと進化し、こちらも好評を得ました。軽飛行機としてのモスシリーズは、その後も多くの機種に引き継がれ、DH.80Aプス・モスなどのモデルが開発されました。

モデルの種類

モスには多くのバリエーションが存在し、それぞれ異なるエンジンや設計がされています。以下にその一部を紹介します。

• - DH.60 シーラス・モス (Cirrus Moth): 初期型で、ADCシーラスIエンジン（60馬力）を搭載。日本にも輸入され、陸軍にて試用されました。
• - DH.60 シーラスII・モス (Cirrus II Moth): シーラスII（85馬力）に更新、主翼幅も広がりました。
• - DH.60 ジェネット・モス (Genet Moth): アームストロング・シトレー製ジェネットエンジン（75馬力）を使用しました。
• - DH.60G ジプシー・モス (Gipsy Moth): デ・ハビランドの独自開発したジプシーI（100馬力）を搭載。世界中で使用されました。
• - DH.60M メタル・モス (Metal Moth): より頑丈なモデルで、鋼管溶接構造の胴体を持っていました。
• - DH.60T モス・トレーナー (Moth Trainer): 軍用練習機型で、訓練用爆弾を搭載できるよう改良されました。

著名な記録飛行

この機体には数多くの記録があり、特に注目されるのは以下の二つです。

1. 1926年、ネヴィル・スタックが初の量産型シーラスIIエンジンを搭載したモスでクロイドンからインドへ6か月の横断飛行を達成しました。
2. 1928年には、ジェフリー・デハビランド自身がジプシー・モスで軽飛行機としての最高高度記録を達成（6,090m）しました。

これらの偉業は、モスの性能と信頼性を強調するものであり、彼らの冒険は、多くの人々にインスピレーションを与えました。

主な仕様 (DH.60G)

• - 全長: 7.29 m
• - 全幅: 9.14 m
• - 全高: 2.68 m
• - 翼面積: 22.57 m²
• - 空虚重量: 417 kg
• - 最大離陸重量: 748 kg
• - エンジン: デ・ハビランド ジプシーI (100馬力)
• - 最高速度: 164 km/h
• - 巡航速度: 137 km/h
• - 航続距離: 515 km
• - 実用上昇限度: 4,420 m

デ・ハビランド DH.60 モスは、その低価格と優れた性能から、個人飛行の普及を進めただけでなく、航空機開発の歴史においても重要な位置を占めています。

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