デーイピュレー

デーイピュレー（古希: Δηιπύλη）

デーイピュレーは、古代ギリシア神話における重要な女性の一人です。アルゴス王国の支配者であったアドラーストスと、その妻アムピテアー（プローナクスの娘）の間に生まれました。彼女には、アイギアレウス、キュアニッポスといった兄弟、そしてアイギアレイア、アルゲイアーという姉妹がいました。彼女自身は、後にカリュドーンの王オイネウスの子であるテューデウスと結ばれ、ギリシア最大の英雄の一人に数えられるディオメーデースの母となります。

運命に導かれた結婚

デーイピュレーの結婚は、父アドラーストスが受けたある特別な神託、あるいは予言によって定められていました。この神託は、「猪」と「ライオン」を象徴する人物に自らの娘たちを与えるべし、という不思議な内容でした。

後に、二人の異邦人がアルゴスの王宮を訪れます。一人は、親族を殺害した罪により故郷カリュドーンを追われたテューデウス。もう一人は、兄弟であるエテオクレースによってテーバイから追放された王子ポリュネイケースでした。この二人が夜遅くにアルゴスへ到着し、王宮の門前で口論から争いに発展した際、アドラーストス王は騒ぎを聞きつけて彼らの元に駆けつけます。

アドラーストスは彼らの姿を見たとき、驚くべき事実に気づきます。テューデウスとポリュネイケースは、それぞれが身につける武具や装束に、件の予言で示された動物の象徴を纏っていたのです。ある伝承によれば、彼らの持つ楯にはそれぞれ猪とライオンの頭部が描かれていたとも、また別の伝承では、彼らがそれぞれの動物の毛皮を身に纏っていたとも言われます。いずれにせよ、アドラーストスは目の前の二人がまさに予言の人物であると悟り、神意の成就を確信しました。

予言に従い、アドラーストスは自分の娘たちを彼らに与えることを決めます。そして、デーイピュレーは猪を象徴するテューデウスと結婚し、その姉妹であるアルゲイアーはライオンを象徴するポリュネイケースと夫婦となりました。こうして、デーイピュレーの結婚は個人的な結びつきである以上に、父王が受けた神託に基づく、運命的な出来事として描かれています。

ディオメーデースの母として

デーイピュレーとテューデウスの間には、後に名を馳せる息子ディオメーデースが誕生しました。テューデウスは「テーバイに対する七将」の一員としてテーバイ攻めに参加し、その最中に命を落としますが、息子ディオメーデースは父の遺志を継ぎ、そして母デーイピュレーに見守られながら成長します。

長じたディオメーデースは、まず母方の祖父であるアドラーストスと共に、父たちの仇を討つための「エピゴノイ（後裔たちの戦い）」に参加し、テーバイを陥落させることに成功します。さらに彼は、父方の祖父オイネウスが治めていたカリュドーンで起きていた争いを収め、祖父を助け出しました。そして、ギリシア神話における最大の戦争の一つであるトロイア戦争においては、アキレウスや大アイアースと並ぶ主要な英雄として活躍します。

デーイピュレー自身に関する個別の物語は多く語られていませんが、彼女がアルゴス王家の娘であり、運命的な結婚を経て、ギリシア世界を代表する英雄であるディオメーデースの母となったことは、彼女が神話の大きな流れの中で重要な位置を占める人物であることを示しています。彼女の存在は、父アドラーストスの予言と、それに続く二人の異邦人との出会い、そして息子ディオメーデースの輝かしい功績と密接に結びついて記憶されています。

もう一度検索