データ競合

データ競合について

データ競合（データきょうごう、英: data race）は、同一のデータに対する同時の読み書きが非一貫性を引き起こす現象です。この現象は、プログラミングにおいて特にマルチスレッド環境での注意が必要な問題です。データ競合は、具体的には以下の三つの条件が同時に満たされる場合に発生します。

1. 単一のプロセス内で2つ以上のスレッドが、メモリ上の同じデータに同時にアクセスする。
2. そのアクセスのうちの少なくとも1つが書き込み操作である。
3. どのスレッドも、排他的ロックを用いてそのメモリへのアクセスを制限していない。

これらの条件が満たされると、データのアクセス順序が非決定的になり、処理の実行ごとに異なる結果が生じることがあります。例えば、初期値が1の共有変数xがあるとします。ここでスレッドAがxを読み取る操作を行い、同時にスレッドBがxに2を書き込もうとした場合の結果は、スレッドAが1を読み取り、スレッドBが2を書き込むか、またはスレッドBが2を書き込み、スレッドAが2を読み取るかの不確定性があります。このように、操作の同時性が不確定な結果につながり、プログラムの一貫性を損ねる現象をデータ競合と呼びます。

データ競合は、マルチスレッドプログラムに特有の現象であり、シングルスレッドプログラムでは発生しません。また、シングルコア環境でも、オペレーティングシステムが短時間でコンテキストを切り替えることで、一見同時に実行されているように見えますが、実際にはデータ競合が発生する可能性があります。そのため、十分な注意が必要です。

データ競合を防ぐための手法としては、排他制御が行えるロックやアトミック操作が一般的です。これにより、同じメモリ領域への同時アクセスを制限することが可能になります。ただし、シングルスレッドプログラムでも割り込みが発生することで、広義のデータ競合が生じることがあります。これは「割り込み干渉」と称され、厳密な制御が求められる状況、特に組み込みシステムなどにおいて考慮が必要です。

また、データ競合と競合状態は似たように見えますが、異なる概念です。たとえば、共有変数へのアクセスが排他制御によって保護されていても、プログラムの動作が変化する可能性があるため、競合状態を避けるための設計も重要です。

プログラミング言語によっては、データ競合の定義が異なります。たとえば、C言語やC++の最初の仕様ではデータ競合に関する記述が存在しませんでしたが、C11およびC++11以降は標準化されています。また、Javaでは、アクセスの順序が定義されていない2つの競合するアクセスがあった場合にデータ競合が発生すると考えられています。JavaScriptにおいても、特定の条件を満たすとデータ競合が生じるとされています。

プログラマーは、これらの理解を基にプログラムを設計し、データ競合のリスクを十分に考慮する必要があります。データ競合は、時として無害に見える場合もありますが、多くはプログラムのバグに繋がるため、明確な対策が求められます。

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