デーモプトレモス

デーモプトレモス（古希: Δημοπτόλεμος, Dēmoptolemos）は、古代ギリシアの詩人ホメーロスが著した叙事詩『オデュッセイアー』に描かれている人物である。長母音を省略してデモプトレモスと表記される場合もある。

彼は、トロイア戦争からの帰還が長らく途絶えていたイタケーの王オデュッセウスの留守中に、その妻である王妃ペーネロペーに結婚を申し込んだ多数の求婚者たちの一員として登場する。デーモプトレモスはドゥーリキオン島を故郷としており、求婚者たちの集団の中でも特に武勇に優れた戦士として知られていた。

オデュッセウスが不在の間、求婚者たちはイタケーの王宮に居座り、王家の財産を食い潰し、王妃ペーネロペーに執拗に結婚を迫るという傲慢かつ横暴な振る舞いを続けていた。デーモプトレモスは、アゲラーオス、エウリュノモス、アムピメドーン、ペイサンドロスといった他の有力な求婚者たちとともに、この集団の中核をなし、王宮における求婚者たちの支配的な立場を支えていたのである。

二十年を経てついに故郷へと帰還したオデュッセウスは、息子テーレマコスや忠実な家僕たち、そして後見者である女神アテーナーの助力を得て、王宮を我が物顔で振る舞う求婚者たちに対する報復を決行した。ペーネロペーが用意した、オデュッセウスにしか扱えない強弓を用いた「弓の競争」の場で正体を現したオデュッセウスは、まず先頭に立って彼を侮辱し続けた求婚者アンティノオスを射殺し、続く求婚者たちへの苛烈な粛清を開始した。

突然の攻撃に多くの求婚者たちは武器を持たぬままパニックに陥り、あるいは命乞いを試みた。しかし、デーモプトレモスを含む一部の求婚者たちは、戦士としての矜持から、あるいは追い詰められた絶望感から、最後まで抵抗を試みた。アゲラーオスは、混乱する他の求婚者たちを鼓舞し、オデュッセウスとその協力者たちに向かって反撃するよう呼びかけた。デーモプトレモスもまた、この呼びかけに応じ、アゲラーオスらとともにオデュッセウスたち目掛けて一斉に槍を投じた。

しかし、彼らの放った槍は、オデュッセウスを庇護する女神アテーナーの神的な介入によって、その軌道を大きく逸らされ、誰にも当たらなかった。求婚者たちの最後の抵抗の試みは、このようにして神の力によって容易く阻まれたのである。

対照的に、オデュッセウスは自らの手でデーモプトレモスに止めを刺した。彼は正確に狙いを定め、強力な槍をデーモプトレモスに向かって投げた。その槍はデーモプトレモスの肉体を貫通し、彼は即座に斃れた。デーモプトレモスの死は、アゲラーオスを含む他の指導的な求婚者たちが次々とオデュッセウスの手に倒れていく一連の出来事の中で描かれており、求婚者たちの抵抗が完全に打ち砕かれ、彼らの運命が決定付けられた瞬間の一つとなった。

デーモプトレモスは、『オデュッセイアー』における求婚者たちの象徴的な存在の一人として描かれている。彼の武勇と、最期まで抵抗を試みた姿は、求婚者たちの図太さや支配欲を示す一方で、最終的に正当な支配者であるオデュッセウスの力、そして彼を助ける神々の意志の前には無力であったことを対比的に際立たせている。彼の死は、物語のクライマックスにおける正義の回復と秩序の再構築というテーマを強く印象づける場面の一つであると言える。

もう一度検索