トウヒ

トウヒ（唐檜）

トウヒ（学名：Picea jezoensis var. hondoensis）は、マツ科トウヒ属に分類される常緑針葉樹です。この種は、エゾマツの変種として知られており、北海道や北東アジアに広く分布するエゾマツとは異なり、主に本州の亜高山帯に生育しています。

分布

トウヒは、本州の紀伊半島大台ヶ原から中部山岳地帯を経て福島県の吾妻山にかけての、標高1,500メートルから2,500メートルの亜高山帯に分布しています。これは、更新世前期に本州まで南下し、広範囲に分布していたエゾマツが、氷期の終わりに山岳地帯に取り残されたものが、トウヒの祖先であると考えられています。しかし、ミトコンドリアDNAの分析では、トウヒに最も近縁なのは北海道のエゾマツではなく、朝鮮半島や中国東北部に分布するチョウセントウヒであることが示されています。このことから、トウヒは北海道のエゾマツが南下したのではなく、チョウセントウヒが朝鮮半島や西日本を経由して分布を広げた可能性が示唆されています。

最終氷期には、現在よりも広い範囲に分布していたトウヒですが、現在は吾妻山より北の東北地方には分布していません。これは、トウヒが多量の積雪に弱く、東北地方の山岳が世界有数の多雪地帯であるためと考えられています。最終氷期は現在よりも寒冷でしたが、降雪量は少なかったと推測されています。

特徴

本州に分布するトウヒ属の中では最も広い範囲に分布し、数も多いですが、亜高山帯林の中ではモミ属に比べると少数派です。しかし、倒木を苗床にして成長する倒木更新を行うことが多いため、特定の場所に数本が集まって自生していることがよくあります。大台ヶ原には、日本では珍しいトウヒの純林が見られますが、鹿の食害によってその存続が危ぶまれています。

トウヒは、亜高山帯の主要樹種であるシラビソやオオシラビソよりも寿命が長く、大木に成長する傾向があります。樹高は40メートル、幹の太さは1メートル以上になることもあります。樹皮は灰褐色で、葉の断面は扁平、長さは7ミリから15ミリ程度です。球果は長さ3センチから6センチほどです。

また、トウヒの木材は建材として利用されますが、その中でも最も軽い部類に入ります。

その他

関連項目
トウヒ属
エゾマツ
オウシュウトウヒ

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