オウシュウトウヒ

オウシュウトウヒ（Picea abies）

オウシュウトウヒは、マツ科トウヒ属に属する常緑針葉樹の高木です。ヨーロッパを原産とし、ドイツトウヒ、ヨーロッパトウヒ、ドイツマツなど、さまざまな別名で親しまれています。その高さは50メートルに達することもあり、円錐形の美しい樹形が特徴です。

分布と生育地

オウシュウトウヒは、ヨーロッパの固有種であり、ノルウェーからバルカン半島にかけて広く分布しています。特に、北欧全土や中央・南ヨーロッパの山岳地帯に多く見られます。寒冷な気候を好み、山岳地帯やスカンジナビア半島の針葉樹林で主要な樹種となっています。日当たりの良い場所を好みますが、乾燥には弱い性質を持っています。日本国内では、公園や庭園などで観賞用として植えられているのを見ることができます。

ドイツトウヒという名前ですが、ドイツでの自生はシュヴァルツヴァルトなど一部地域に限られており、多くは人工的に植林されたものです。英語名のNorway Spruce（ノーウェイ・スプルース）が示すように、本来の分布の中心は東ヨーロッパおよび北ヨーロッパにあります。

特徴

オウシュウトウヒは、高さ35〜40メートルに成長する高木で、条件の良い場所では50メートル、直径2メートルに達することもあります。樹形は円錐形で、樹齢を重ねると小枝が垂れ下がり、独特の姿になります。500年以上の樹齢を持つ個体も存在します。

樹皮は褐色から暗灰褐色で、老木になると鱗片状に剥がれます。若木の樹皮は明褐色でまだら状に剥がれ、若い枝は明褐色をしています。冬芽は卵形で茶褐色の鱗片に包まれており、春の芽出しの時期には鱗片がめくれてきます。

葉はらせん状に互生し、長さ約2センチメートルの針状で、黒緑色で光沢があります。葉先は尖っており、触ると少し痛いです。

花期は4〜6月頃で、10月頃に長さ10〜20センチメートルの球果（松ぼっくり）が枝から下向きにぶら下がって実ります。若い球果は緑色ですが、次第に紅色を帯び、美しい姿を見せてくれます。

生育は比較的容易ですが、酸性雨や大気汚染には弱く、深刻な地域では枯死することもあります。寒さには強く、土壌もあまり選びません。防風林としても利用されますが、根張りが弱いため、強風には注意が必要です。

オウシュウトウヒは、幹が400年も生きることがありますが、垂れ下がった枝が地面に接すると、そこから根を出して新しい幹を形成することがあります。スウェーデンで発見された「オールド・ティッコ」と呼ばれるオウシュウトウヒは、幹の樹齢は数百年ですが、地下の根の年齢は約9,500年と推定されており、世界最古の樹木の一つとして知られています。

利用

オウシュウトウヒは、モミの木などとともにクリスマスツリーとして広く利用されています。また、ノルウェーの首都オスロからは、戦時中の支援に対する感謝の意を込めて、毎年アメリカやイギリスにクリスマスツリーが寄贈されています。

材木としては、白色から淡い黄白色で、木理は通直、肌目は緻密で光沢があります。軽軟で加工しやすく、乾燥による収縮も少ないため、建築材や楽器の響板として利用されます。特に、ヴァイオリンやギターなどの弦楽器の響板として、世界的に高く評価されています。ストラディバリウスなどの名器にも、オウシュウトウヒの響板が使用されています。

園芸

オウシュウトウヒは移植に強く、成長も早いため、苗木が安価で流通しています。庭木としては原種は大きくなりすぎるため、枝垂れ性の「Pendula Major」や矮性の「maxwellii」などの園芸品種が人気です。

材木

オウシュウトウヒの材木は、楽器、建築、その他様々な用途で利用されています。以下にその詳細を示します。

楽器: ヴァイオリン、ギター、ピアノなどの響板として世界中で珍重されています。特に、高山でゆっくり育ったオウシュウトウヒは、年輪が緻密で優れた音響特性を持ちます。
建築: 建築材としては、集成材の原料として使われることが多いです。また、近年では、木肌の美しさから、蒲鉾板や棺桶、卒塔婆の材料としても日本に輸出されています。
* その他: かつては鉄道の防雪林としても利用されていました。

オウシュウトウヒの材は、その多様な用途で私たちの生活を支えています。

もう一度検索