トガリ
夏目義徳氏によって創造された漫画作品『トガリ』は、『週刊少年サンデー』（小学館）にて2000年から2002年にかけて連載されました。さらに、この物語のその後を描く続編『咎狩 白』が、『コミックフラッパー』（メディアファクトリー）にて2009年から2011年にかけて連載され、本項では両作品について解説します。
物語の始まりは、江戸時代に極悪非道の人斬りとして人々から恐れられ、16歳で斬首刑となり地獄へ送られた男、統兵衛（とうべえ）です。彼は地獄に堕ちてからの300年間、一切反省することなく、ただ脱獄ばかりを繰り返す日々を送っていました。ある時、地獄の最高権力者であるエマは、そんな統兵衛に特別な木刀「咎狩」を授け、現世に戻って罪が実体化したもの、すなわち「咎」を回収するよう命じます。その期限はわずか108日。その間に108の咎を集めきることが、彼に課せられた条件でした。この期間、統兵衛は地獄からの自由を得ますが、もし彼自身が罪を犯せば、首が落ちて死んでしまうという過酷な制約も同時に背負わされます。
一方、現代の現世では、高校生の少女浅木いつき（あさぎ いつき）が連続殺人犯に狙われ、命の危機に瀕していました。まさにその時、統兵衛が現世へと降り立ち、その殺人犯から咎を回収することになります。これが、統兵衛といつき、そして彼らを取り巻く人々の運命が交錯し始めるきっかけとなるのです。
登場人物たちは、それぞれに過去や葛藤を抱えています。主人公の統兵衛は、物心つく前に親を亡くし、名前すら他人から奪ったという過酷な生い立ちを持ち、学力は低いものの驚異的な飲み込みの早さを見せます。江戸っ子特有のべらんめぇ口調が特徴で、元は冷酷非情な性格でしたが、浅木家の人々との温かい交流や、現世での様々な事件を通して、次第に人間的な感情を取り戻していきます。同時に、自身の内なる闇とも向き合うことになりますが、最終的にはそれすらも受け入れていきます。世界の破壊を目論む謎の存在瀬奈（せな）の出現を知ってからは、大切な人々を守るために彼を追うことになります。続編『咎狩 白』では、現世での期限が残り1日、集めた咎が107個という緊迫した状況から物語が始まります。
ヒロインの浅木いつきは、勝気な性格の高校生。父は10年前に瀬奈によって殺害された刑事で、母は看護師です。統兵衛に命を救われて以来彼と関わるようになり、いつきの祖父が統兵衛の身元保証人になったことで、現世の生活や常識を教える役目を担います。当初は統兵衛の言動に反発することもありましたが、彼の変化を間近で見守り、自身の関わりが彼に影響を与えていることに手応えを感じるようになります。
いつきの父の元部下である刑事沢崎（さわざき）は、統兵衛の目に宿る人殺しのそれに疑念を抱き、彼が関わる怪現象の調査を開始します。かつては東大主席クラスの秀才でしたが、いつきの父が殺害された事件を機に出世の道を絶たれました。正義感が強く生真面目な人物ですが、統兵衛の境遇を思い遣る優しさも持ち合わせています。いつきが瀬奈に撃たれた際には、激しい怒りを見せました。
いつきの祖父は寺の住職であり、統兵衛をも怯ませるほどの気迫の持ち主です。統兵衛がいつきの恩人であることを知り、彼を自宅に住まわせます。ホームレスの先生は博識で、「無闇に敵を作る空しさ」を統兵衛に教えた人物。彼もまた10年前の教会での事件を機に人生が変わったようで、いつきの祖父とも繋がりがあるようです。その他、統兵衛に苗字を贈った子供おがたゆういちなど、様々な人々との出会いが統兵衛の心を揺り動かしていきます。
冥界からは、地獄の首魁エマの命を受け、現世で統兵衛を監視する鬼のオセが登場します。真面目すぎる性格ゆえに他の鬼から疎まれていましたが、その性質をエマに買われました。現世では通常犬の姿をとっており、いつきたちからは統兵衛のペットだと思われています。回復力が高く、人間より現世の知識はありますが、実際来たことはなく戸惑いも見せます。甘いものが好きで、統兵衛の変化を最初は半信半疑で見ていましたが、統兵衛がトガリに飲まれかけた危機を乗り越えた後は、彼の善性を確信するようになります。
物語の核心に関わる敵対勢力として、白い闇とも呼ばれる謎の高校生瀬奈がいます。表向きは優等生ですが、10年前に咎の力に目覚めて以来、社会的に虐げられた人々や罪人に咎を与え、社会の崩壊を画策する危険人物です。彼は特に力の強い咎能力者を集め、5人組の組織ex（イクス）を結成し、街を舞台にした連続爆破計画を実行に移します。瀬奈と行動を共にするアミは、かつて冥界の存在でしたが、人間の女性との恋と、その女性が殺害された事件を機に冥界の掟を破り追放されました。瀬奈ならば全てを壊せると考え協力していますが、彼の行動を面白がっている側面もあります。
exのメンバーはそれぞれ特異な咎の能力を持ち、ニコ、WISH（ウィッシュ）、ガク、イチ、アリエルといった個性的な面々です。彼らは皆、世の中に深い憎しみを抱き、瀬奈にスカウトされましたが、多くは咎を回収された後にニコによって始末されるという悲劇的な運命を辿ります（アリエルは統兵衛に助けられます）。
『トガリ』は小学館より全8巻、新装版がメディアファクトリーより全4巻が刊行されています。続編『咎狩 白』は全3巻が刊行されており、統兵衛が残り少ない時間の中で、自身の過去や課せられた使命、そして現世で得た絆とどのように向き合っていくのかが描かれます。
この作品は、かつて極悪非道であった男が、人間らしい感情を取り戻し、他者を守るために戦う姿を通して、「罪」とは何か、「人間性」とは何かを問いかけます。ダークな世界観の中に、登場人物たちの熱いドラマが描かれる魅力的な作品です。
物語の始まりは、江戸時代に極悪非道の人斬りとして人々から恐れられ、16歳で斬首刑となり地獄へ送られた男、統兵衛（とうべえ）です。彼は地獄に堕ちてからの300年間、一切反省することなく、ただ脱獄ばかりを繰り返す日々を送っていました。ある時、地獄の最高権力者であるエマは、そんな統兵衛に特別な木刀「咎狩」を授け、現世に戻って罪が実体化したもの、すなわち「咎」を回収するよう命じます。その期限はわずか108日。その間に108の咎を集めきることが、彼に課せられた条件でした。この期間、統兵衛は地獄からの自由を得ますが、もし彼自身が罪を犯せば、首が落ちて死んでしまうという過酷な制約も同時に背負わされます。
一方、現代の現世では、高校生の少女浅木いつき（あさぎ いつき）が連続殺人犯に狙われ、命の危機に瀕していました。まさにその時、統兵衛が現世へと降り立ち、その殺人犯から咎を回収することになります。これが、統兵衛といつき、そして彼らを取り巻く人々の運命が交錯し始めるきっかけとなるのです。
登場人物たちは、それぞれに過去や葛藤を抱えています。主人公の統兵衛は、物心つく前に親を亡くし、名前すら他人から奪ったという過酷な生い立ちを持ち、学力は低いものの驚異的な飲み込みの早さを見せます。江戸っ子特有のべらんめぇ口調が特徴で、元は冷酷非情な性格でしたが、浅木家の人々との温かい交流や、現世での様々な事件を通して、次第に人間的な感情を取り戻していきます。同時に、自身の内なる闇とも向き合うことになりますが、最終的にはそれすらも受け入れていきます。世界の破壊を目論む謎の存在瀬奈（せな）の出現を知ってからは、大切な人々を守るために彼を追うことになります。続編『咎狩 白』では、現世での期限が残り1日、集めた咎が107個という緊迫した状況から物語が始まります。
ヒロインの浅木いつきは、勝気な性格の高校生。父は10年前に瀬奈によって殺害された刑事で、母は看護師です。統兵衛に命を救われて以来彼と関わるようになり、いつきの祖父が統兵衛の身元保証人になったことで、現世の生活や常識を教える役目を担います。当初は統兵衛の言動に反発することもありましたが、彼の変化を間近で見守り、自身の関わりが彼に影響を与えていることに手応えを感じるようになります。
いつきの父の元部下である刑事沢崎（さわざき）は、統兵衛の目に宿る人殺しのそれに疑念を抱き、彼が関わる怪現象の調査を開始します。かつては東大主席クラスの秀才でしたが、いつきの父が殺害された事件を機に出世の道を絶たれました。正義感が強く生真面目な人物ですが、統兵衛の境遇を思い遣る優しさも持ち合わせています。いつきが瀬奈に撃たれた際には、激しい怒りを見せました。
いつきの祖父は寺の住職であり、統兵衛をも怯ませるほどの気迫の持ち主です。統兵衛がいつきの恩人であることを知り、彼を自宅に住まわせます。ホームレスの先生は博識で、「無闇に敵を作る空しさ」を統兵衛に教えた人物。彼もまた10年前の教会での事件を機に人生が変わったようで、いつきの祖父とも繋がりがあるようです。その他、統兵衛に苗字を贈った子供おがたゆういちなど、様々な人々との出会いが統兵衛の心を揺り動かしていきます。
冥界からは、地獄の首魁エマの命を受け、現世で統兵衛を監視する鬼のオセが登場します。真面目すぎる性格ゆえに他の鬼から疎まれていましたが、その性質をエマに買われました。現世では通常犬の姿をとっており、いつきたちからは統兵衛のペットだと思われています。回復力が高く、人間より現世の知識はありますが、実際来たことはなく戸惑いも見せます。甘いものが好きで、統兵衛の変化を最初は半信半疑で見ていましたが、統兵衛がトガリに飲まれかけた危機を乗り越えた後は、彼の善性を確信するようになります。
物語の核心に関わる敵対勢力として、白い闇とも呼ばれる謎の高校生瀬奈がいます。表向きは優等生ですが、10年前に咎の力に目覚めて以来、社会的に虐げられた人々や罪人に咎を与え、社会の崩壊を画策する危険人物です。彼は特に力の強い咎能力者を集め、5人組の組織ex（イクス）を結成し、街を舞台にした連続爆破計画を実行に移します。瀬奈と行動を共にするアミは、かつて冥界の存在でしたが、人間の女性との恋と、その女性が殺害された事件を機に冥界の掟を破り追放されました。瀬奈ならば全てを壊せると考え協力していますが、彼の行動を面白がっている側面もあります。
exのメンバーはそれぞれ特異な咎の能力を持ち、ニコ、WISH（ウィッシュ）、ガク、イチ、アリエルといった個性的な面々です。彼らは皆、世の中に深い憎しみを抱き、瀬奈にスカウトされましたが、多くは咎を回収された後にニコによって始末されるという悲劇的な運命を辿ります（アリエルは統兵衛に助けられます）。
『トガリ』は小学館より全8巻、新装版がメディアファクトリーより全4巻が刊行されています。続編『咎狩 白』は全3巻が刊行されており、統兵衛が残り少ない時間の中で、自身の過去や課せられた使命、そして現世で得た絆とどのように向き合っていくのかが描かれます。
この作品は、かつて極悪非道であった男が、人間らしい感情を取り戻し、他者を守るために戦う姿を通して、「罪」とは何か、「人間性」とは何かを問いかけます。ダークな世界観の中に、登場人物たちの熱いドラマが描かれる魅力的な作品です。
もう一度検索
【記事の利用について】
タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。
【リンクついて】
リンクフリーです。