トスカーナの贋作

『トスカーナの贋作』（原題: Copie conforme）は、アッバス・キアロスタミ監督が手掛けた、2010年公開のフランスとイタリアの合作映画です。この作品は、トスカーナの美しい風景を舞台に、一組の男女の関係を通して、オリジナルとコピー、現実と虚構といったテーマを深く掘り下げています。

物語は、トスカーナの小さな村で開催された、ジェームズという男性作家の講演から始まります。彼の著書『贋作　本物より美しき贋作を』の内容に惹かれた一人の女性が、息子を連れて講演に訪れます。講演後、ジェームズはその女性が経営するギャラリーを訪れ、二人は再会を果たします。

女性はジェームズを「面白い場所へ連れ行ってあげる」と誘い、彼は「9時までに列車に間に合うように帰る」という条件で、彼女の誘いに乗ります。彼女はジェームズに「トスカーナのモナリザ」と呼ばれる贋作を見せますが、彼は「モナリザだってジョコンダ夫人の贋作にすぎない」と冷静に答えます。

カフェに立ち寄った際、二人は店の人に夫婦と間違えられたことをきっかけに、互いに長年連れ添った夫婦を演じるというゲームを始めます。最初は順調に進んでいたゲームでしたが、街中の彫像を巡るうちに、二人の間には微妙なずれが生じ始めます。互いに苛立ちを感じ始めた頃、老夫婦と出会い、彼らもまた二人を夫婦だと勘違いします。老夫婦の夫はジェームズに、「奥さんが求めているのは、そっと肩を抱かれて歩くことだ」とアドバイスを送ります。

レストランで、二人は関係の修復を試みます。女性は魅力的であろうと化粧直しをしますが、会話はぎくしゃくし、ジェームズは苛立ちのあまり店を出て行ってしまいます。女性は彼の後を追い、一人で教会へ向かいます。教会から出てきた彼女に、ジェームズはまるで長年連れ添った妻を労わるように静かに謝ります。穏やかに夫婦の関係を築き直そうと、二人はお互いを許し、寄り添います。

しかし、突然女性は「15年前の結婚式の夜に泊まった」と言い出し、近くの安ホテルを訪れます。「15年前に泊まった部屋」に通された彼女は、すでに夫婦の関係を単なるゲームとして捉えられなくなっていました。ジェームズは自分が幻想を求めているのかどうかを見定めるように、洗面台の鏡に映った夫を演じる自分自身を見つめます。そして、「言ったはずだ。9時までに戻ると」という言葉と共に、教会の鐘が夕暮れを告げる中、物語は幕を閉じます。

本作は、ジュリエット・ビノシュとウィリアム・シメルの二人が織りなす、繊細で複雑な人間関係を描き出しています。また、ジャン＝クロード・カリエール、アガット・ナタンソンといった実力派俳優たちが脇を固め、物語に深みを与えています。

『トスカーナの贋作』は、第63回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で上映され、ジュリエット・ビノシュが女優賞を受賞するなど、高い評価を得ました。観る者それぞれに異なる解釈を許容する、奥深い作品です。

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