トニー・トンプソン (ドラマー)

トニー・トンプソン

トニー・トンプソン（Tony Thompson、1954年11月15日 - 2003年11月12日）は、アメリカ合衆国出身のドラマーです。特に、1970年代後半に一世を風靡したディスコバンド、シック（Chic）の中心メンバーとして、そのグルーヴ感溢れるドラムサウンドでバンドの成功に不可欠な役割を果たしました。また、1980年代にはロックバンド、パワー・ステーション（The Power Station）にも参加するなど、ジャンルを超えて活躍しました。

生涯の初期

トンプソンは、ニューヨーク州ニューヨーク市のクイーンズ区に位置するスプリングフィールド・ガーデンズという中流階級の地域で育ちました。彼の家族背景は多様で、母親はトリニダード島出身、父親はアンティグア島をルーツに持つ子孫でした。

音楽キャリア

彼の音楽キャリアは、ラベル（Labelle）というグループでのドラム演奏から始まり、その後ソウル／ディスコバンドの「エクスタシー、パッション&ペイン（Ecstasy, Passion & Pain）」に短期間参加しました。

シックでの活躍

キャリアにおいて最も長く、そして重要だったのはシックでの活動です。ベーシストのバーナード・エドワーズ、ギタリストのナイル・ロジャースと共に、トンプソンはシックの核となるリズム隊を形成しました。彼のリズムワークは、「ダンス、ダンス、ダンス（Dance, Dance, Dance (Yowsah, Yowsah, Yowsah)）」「おしゃれフリーク（Le Freak）」「グッド・タイムス（Good Times）」といった、世界的な大ヒット曲の誕生に大きく貢献しました。シックのプロデュースワークにおいても、その手腕を発揮し、シスター・スレッジ（Sister Sledge）の「ウィ・アー・ファミリー（We Are Family）」「グレイテスト・ダンサー（He's the Greatest Dancer）」や、ダイアナ・ロス（Diana Ross）の「アップサイド・ダウン（Upside Down）」「アイム・カミング・アウト（I'm Coming Out）」といった楽曲で、シックのリズム隊として演奏しています。

セッションワーク

1983年にシックが一時的に活動を休止した後も、トンプソンは引く手あまたのセッションドラマーとして活躍しました。シックの元メンバーでプロデューサーとしても多忙を極めていたナイル・ロジャースやバーナード・エドワーズのプロジェクトを中心に、数多くのアーティストのレコーディングに参加。そのリストには、ジョディ・ワトリー（Jody Watley）、マドンナ（Madonna - アルバム『ライク・ア・ヴァージン』、1984年）、ロッド・スチュワート（Rod Stewart）、ロバート・パーマー（Robert Palmer）、デヴィッド・ボウイ（David Bowie - 「シリアス・ムーンライト・ツアー」にも参加）といった、錚々たる顔ぶれが並びます。

他のバンド活動

セッション活動と並行して、バンドにも積極的に参加しました。特に知られているのは、ロバート・パーマー、そしてデュラン・デュラン（Duran Duran）のジョン・テイラー（John Taylor）とアンディ・テイラー（Andy Taylor）と共に結成したスーパーグループ、パワー・ステーションです。

1985年のチャリティコンサート、ライヴエイド（Live Aid）では、パワー・ステーションとして出演したほか、フィラデルフィアのジョン・F・ケネディ・スタジアムのステージで、フィル・コリンズ（Phil Collins）と共にレッド・ツェッペリン（Led Zeppelin）のメンバー（ジミー・ペイジ、ロバート・プラント、ジョン・ポール・ジョーンズ）と共演するという歴史的な瞬間を経験しました。その後、レッド・ツェッペリンがイギリスで再結成のリハーサルを行った際、トンプソンはドラマーとして招かれましたが、自動車事故で重傷を負ってしまったため参加が叶わず、結果としてこの企画は中止となりました。

パワー・ステーション以外にも、ディスタンス（Distance）、ジャン・ボーヴォワール（Jean Beauvoir）率いるクラウン・オブ・ソーンズ（Crown of Thorns - ファースト・アルバム参加後に脱退）、そしてThat Hideous Strengthといったグループで活動しました。1990年代半ばには、1996年の再結成アルバム『リヴィング・イン・フィア（Living in Fear）』とその後のツアーのために再びパワー・ステーションに加わりました。キャリアの最後のプロジェクトとなったのは、ベーシストのマイケル・ペイジ（Michael Page）やギタリストのデイヴ・スコット（Dave Scott）と結成したNon-Toxicでしたが、このバンドのファースト・アルバムが完成する前に、彼は世を去りました。

死と遺産

トニー・トンプソンは、49歳の誕生日を迎えるわずか3日前の2003年11月12日、ロサンゼルスにて腎細胞癌（腎臓がん）により亡くなりました。病気が診断されてから、わずか1ヶ月足らずでの急逝でした。奇しくも、パワー・ステーションで共に活動した盟友ロバート・パーマーが心臓発作で亡くなった、その2ヶ月後のことでした。彼の闘病生活は、妻、二人の子供、そして妹のクッキー（Cookie）に支えられていました。

トンプソンの音楽界への貢献は高く評価され、2005年9月19日には、シックの他のメンバーであり、先に亡くなったバーナード・エドワーズと共に、ダンス・ミュージックの殿堂（Dance Music Hall of Fame）入りを果たしました。没後も、彼の偉大な功績は称えられています。

ディスコグラフィ

シック（Chic）
Chic (1977)
C'est Chic (1978)
Risqué (1979)
Real People (1980)
Take It Off (1981)
Tongue in Chic (1982)
Believer (1983)

主な参加アルバム
シスター・スレッジ: We Are Family (1979)
シスター・スレッジ: Love Somebody Today (1980)
ダイアナ・ロス: Diana (1980)
パワー・ステーション: The Power Station (1985)
ロバート・パーマー: Riptide (1985)
ロッド・スチュワート: Out of Order (1988)
ディスタンス: Under the One Sky (1989)
クラウン・オブ・ソーンズ: The Black CD (EP, 1991)
クラウン・オブ・ソーンズ: Crown of Thorns (1994)
デュラン・デュラン: Thank You (1995)
パワー・ステーション: Living in Fear (1996)

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