トニー・ベリュー

1982年11月30日生まれ、英国リヴァプール出身の元プロボクサー、トニー・ベリューは、その予測不能な試合展開と強烈なパンチで、多くのボクシングファンを熱狂させた。

アマチュア時代には40勝7敗の戦績を残し、2007年10月6日にライトヘビー級でプロキャリアを開始。デビュー戦を2回TKO勝利で飾り、順調なスタートを切った。

プロ転向後、ベリューは国内および地域のタイトル戦線で頭角を現す。2010年3月にはアトーリ・モーレとの決定戦を制し、コモンウェルスイギリス連邦ライトヘビー級王座を獲得。この王座は2度防衛した。同年9月にはボブ・アジサフェに判定勝ちし初防衛に成功、12月にはオビール・マッケンジーをTKOで退け2度目の防衛を果たした。マッケンジーとは翌2011年7月にも対戦し、BBBofC英国ライトヘビー級王座決定戦として行われたこの再戦に判定勝ち。コモンウェルス王座の3度目の防衛と共に、英国王座も手にした。

キャリア初期の大きな試練は、2011年10月に行われたWBO世界ライトヘビー級王者ネイサン・クレバリーへの挑戦だった。地元リヴァプールでの世界初挑戦だったが、僅差の判定で惜敗。自身初の黒星となった。しかし、この敗戦から立ち直り、2012年にはBBBofC英国王座への返り咲き、WBCインターナショナルライトヘビー級王座、WBC世界ライトヘビー級シルバー王座を獲得するなど、再び世界のトップ戦線へと駒を進めた。

WBC世界ライトヘビー級シルバー王者として、アイザック・チレンバとの対戦を経験。2013年3月の初戦は引き分けに終わったが、2度目の対戦となった同年5月には判定で勝利し、このライバル対決に決着をつけた。その後、WBC世界ライトヘビー級正規王者アドニス・ステベンソンへの挑戦が実現したが、2013年11月、6回にキャリア初のダウンを奪われ、そのままTKO負け。世界王座獲得はまたしても叶わなかった。

ステベンソン戦での敗北後、ベリューは階級をクルーザー級に上げた。この転向が彼のキャリアにおけるターニングポイントとなる。クルーザー級での活動を開始し、2014年3月にはWBOインターナショナルクルーザー級王座を獲得し、同年7月には初防衛に成功。そして、階級転向後最大の注目を集めたのが、2014年11月に行われたネイサン・クレバリーとの3年ぶりの再戦だった。因縁の相手との激闘を制し、判定で勝利。3年前の雪辱を果たし、WBO世界クルーザー級王者への指名挑戦権を手にした。さらに、2015年12月にはEBUヨーロッパクルーザー級王座決定戦に勝利し、着実に実績を積み重ねた。

そして、ついに世界王座への扉が開く。2016年5月、地元のグディソン・パークで行われたWBC世界クルーザー級王座決定戦で、イルンガ・マカブと激突。初回にダウンを喫するも、驚異的な回復力を見せ、3回に猛攻を仕掛けマカブを失神させるという劇的な逆転TKO勝利を収め、念願のWBC世界クルーザー級王座を獲得した。この勝利により、ベリューは同年6月のWBC月間MVPに選出された。同年10月にはBJ・フローレスを相手にTKO勝利で初防衛に成功し、11月にもWBC月間MVPに選ばれている。

クルーザー級王座を保持したまま、ベリューはヘビー級でのビッグマッチに挑む。相手は元世界ヘビー級王者デビッド・ヘイ。2017年3月、ヘビー級での12回戦として行われたこの注目の一戦で、ベリューは11回TKO勝利という番狂わせを演じた。この功績が認められ、WBCは彼をクルーザー級名誉王座に認定した。ヘイとの再戦は一度延期されたものの、2018年5月に行われた再戦でも5回TKOで勝利し、再びヘビー級の強豪を退けた。

現役最後の試合となったのは、2018年11月に行われた世界クルーザー級4団体統一王者オレクサンドル・ウシクとの対戦だった。最強王者への挑戦だったが、8回にTKO負けを喫した。この試合後、ベリューはリングを去ることを表明し、プロボクサーとしてのキャリアに終止符を打った。

ベリューのボクシングスタイルは、卓越した強打を最大の武器とする一方、時折見せるガードの隙など、スリリングな脆さも併せ持っていた。その予測不能な展開は常に観客を惹きつけ、彼の試合は高いエンターテイメント性を持っていた。

ボクシングキャリアと並行して、俳優としても活動。人気ボクシング映画シリーズ『クリードチャンプを継ぐ男』（2015年）では、主人公のライバルとなるライトヘビー級王者リッキー・コンラン役を演じ、その続編『クリード過去の逆襲』でも同役を再演し、俳優としても成功を収めた。

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