トバイアス・スモレット

トバイアス・スモレット：18世紀英国小説を彩った波乱の生涯

1721年、スコットランドのダンバートンシャーで生まれたトバイアス・スモレットは、18世紀英国を代表する小説家の一人として知られています。彼の生涯は、冒険と苦難に満ちたものであり、その経験は彼の文学作品に深く反映されています。

彼はグラスゴー大学で学びましたが、経済的な理由から中退を余儀なくされます。その後、ロンドンを目指し、悲劇の原稿を携えて上演を希望するも叶わず、彼は1740年から1741年にかけて、海軍嘱託軍医としてスペインとの戦争に従軍しました。この経験は、彼の初期作品に大きな影響を与えたことは間違いありません。

戦争後、スモレットはジャマイカ島に移住し、結婚生活を送ります。その後、ロンドンに戻り、医師を開業しました。しかし、彼の情熱は医学よりも文学にありました。1748年、アラン＝ルネ・ルサージュの『ジル・ブラース』に着想を得て、『ロデリック・ランダム』を刊行します。この作品は英国小説史において、ピカレスク小説というジャンルを確立した重要な作品となりました。

続く1751年には、『ペリグリン・ピックルの冒険』を発表します。この作品は、写実的な描写とユーモラスな語り口で高い評価を受けました。スモレットはその後も精力的に作品を発表し続け、『ファゾム伯爵ファーディナントの冒険』（1753年）、『ドン・キホーテ』の翻訳（1755年）など、多岐にわたる活動を展開しました。『クリティカル・レビュー』誌の創刊にも参加するなど、文壇においても重要な役割を担っていました。しかし、同誌での活動が原因で投獄されるという苦境を経験する場面もありました。

1762年には『ブリティッシュ・マガジン』の主筆に就任しますが、その後大陸へ渡り、イタリアのリヴォルノで最後の長編小説『ハンフリー・クリンカーの遠征』を完成させました。しかし、この作品が成功を収めたことを知る前に、1771年に客死してしまいます。

スモレットの作品は、彼の波乱に満ちた人生経験が色濃く反映されており、そのユーモラスな語り口と写実的な描写は、多くの読者を魅了しました。彼の作品は、チャールズ・ディケンズなど、後世の作家にも大きな影響を与え、現在でも高い評価を受けています。

スモレットの主な作品としては、『ロデリック・ランダムの冒険』、『ペリグリン・ピックルの冒険』、『ハンフリー・クリンカーの遠征』などが挙げられます。これらの作品は、様々な翻訳が出版され、日本でも広く読まれています。また、彼の生涯や作品について研究する書籍も数多く出版されており、現在でも盛んに研究が続けられています。

彼の作品は、単なる冒険小説や風刺小説にとどまらず、18世紀英国社会の様々な側面をリアルに描き出したものとして、文学史における重要な位置を占めています。スモレットの生涯と作品は、私たちに、困難を乗り越え、創作活動に情熱を燃やし続けた一人の作家の人生物語を伝えています。その人生と作品は、今もなお、多くの人々に感動と勇気を与え続けています。

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