トビアスの家族から去る大天使ラファエル

レンブラント・ファン・レインの代表作の一つである『トビアスの家族から去る大天使ラファエル』は、1637年に制作された油彩画です。旧約聖書外典の『トビト書』第12章21-22節を主題としており、盲目の父トビトの視力回復という奇跡の後、大天使ラファエルが天に帰っていく場面を描いています。

この絵画の主題は、盲目のトビトが息子トビアスに、メディアのラガスに住む人に貸した金を回収するよう命じることから始まります。トビアスは旅の途中で大天使ラファエルに出会い、彼に導かれる形で、エクバタナに住む従弟ラグエルの娘サラと結婚します。サラは悪魔に取り憑かれており、7人の夫が婚礼の夜に亡くなっていたという不幸な境遇にありました。

ラファエルの導きにより、トビアスは魚の心臓、肝臓、胆嚢を携え、悪魔を追い払い、サラと結婚します。その後、トビアスは金を取り立て、サラと共に父トビトのもとへ戻ります。そこで、ラファエルの指示に従い、魚の胆汁をトビトの目に塗ると、トビトは視力を取り戻します。その奇跡の後、ラファエルは自身の正体を明かし、天に帰って行きます。

レンブラントの絵画は、この奇跡の場面を劇的に表現しています。画面左下には、突然の出来事に驚き、喜び、感謝の表情を浮かべるトビト、妻アンナ、トビアス、サラが三角形に配置されています。対照的に、大天使ラファエルは明るく輝く光に包まれ、画面右上に上昇する対角線上に配置され、ダイナミックな効果を生み出しています。興味深いのは、聖書の記述には登場しないアンナとサラが描かれている点です。

レンブラントは聖書の深い理解者として知られていますが、本作においても、聖書の記述を忠実に再現したというよりも、先行する芸術作品からの影響が見て取れます。特にマルテン・ファン・ヘームスケルクの銅版画が、飛翔する大天使やひれ伏して祈るトビト、合掌するサラといったモチーフに影響を与えていると考えられています。

この作品は、レンブラント初期の本格的なバロック様式を示す重要な作品とされています。制作年は様式的特徴から判断されており、レンブラントの画業における転換期を象徴する作品と言えるでしょう。1742年にはルイ15世によって取得され、1793年のルーヴル美術館開館以来、同館に展示されています。その劇的な構図、人物たちの感情表現、そして光と影の絶妙なバランスは、今もなお多くの鑑賞者を魅了し続けています。レンブラントの宗教画としての深い理解と、卓越した絵画技術が融合した、まさに芸術の到達点と言える作品です。

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