トマス・ハワード (第4代ノーフォーク公)

第4代ノーフォーク公爵 トマス・ハワード：エリザベス朝の悲劇

第4代ノーフォーク公爵トマス・ハワード（1536年 - 1572年）は、その時代のイングランドにおいて、最も影響力のある貴族の一人でした。彼は、ノーフォーク公爵家という名門の出身であり、エリザベス1世の又従兄弟にあたります。しかし、スコットランド女王メアリーとの結婚計画が発覚し、最終的には大逆罪で処刑されるという、波乱に満ちた生涯を送りました。

生い立ちと爵位継承

1536年、トマス・ハワードはサリー伯ヘンリー・ハワードの長男として生まれました。しかし、彼の家族は、王室との関係悪化により苦難の時代を迎えます。彼の祖父である第3代ノーフォーク公爵は、ヘンリー8世の信任を失い、ロンドン塔に幽閉されました。さらに、父サリー伯も反逆罪で処刑されるという憂き目に遭いました。

しかし、1553年にメアリー1世が即位すると、状況は好転します。祖父はメアリーを支援した功績により、ノーフォーク公爵位に復権。トマス自身も名誉を回復し、1554年には祖父の死によって、第4代ノーフォーク公爵位を継承しました。

婚姻による勢力拡大

トマス・ハワードは、3度の結婚を通じて、その勢力を拡大しました。彼の妻たちは、いずれも女子相続人であり、彼は彼女たちの所領を相続することで、イングランド北部を本拠地とする、国内有数の貴族となりました。

エリザベス女王との関係

エリザベス1世の治世において、トマス・ハワードは重要な役割を果たしました。彼は、1559年のエリザベス女王の戴冠式を取り仕切り、スコットランドへの出兵では北部地方長官を務めました。しかし、次第に女王との間に溝が生じ始めます。女王の寵臣であるレスター伯ロバート・ダドリーと同等の扱いを受けることに不満を抱き、また、女王の政策に対する不満も募らせていきました。

スコットランド女王メアリーとの結婚計画と失脚

トマス・ハワードの運命を大きく左右したのは、スコットランド女王メアリーとの結婚計画でした。1568年、メアリーはスコットランドを追われ、イングランドに亡命。カトリック勢力は、メアリーをイングランド王位に就けようと画策し、その一環として、ノーフォーク公との結婚が計画されました。

ノーフォーク公は、当初この計画に乗り気ではありませんでしたが、最終的にはメアリーと結婚する決意を固めます。彼は、この結婚がイングランドの国益に繋がると考えていました。しかし、エリザベス女王は、この計画を自身の王権への挑戦とみなし、激怒しました。

1569年、ノーフォーク公は女王の許可を得ずに宮廷を退去し、ロンドン塔に投獄されます。その後、一時的に釈放されるものの、1571年にリドルフィ陰謀事件に関与したとして再び逮捕され、大逆罪で起訴されました。

裁判と処刑

1572年、ノーフォーク公はウェストミンスター宮殿で裁判にかけられました。彼は、弁護士を付けることも、訴状の写しを見せてもらうことも許されず、有罪判決ありきの不公平な裁判でした。彼は全ての起訴事実について無罪を主張しましたが、陪審員は彼を有罪としました。

エリザベス女王は、ノーフォーク公の処刑命令への署名を躊躇しましたが、庶民院からの強い要求を受け、最終的に署名。1572年6月2日、トマス・ハワードはロンドン塔で斬首刑に処されました。享年36歳。

死後の名誉回復

ノーフォーク公の死後、公爵位は剥奪されましたが、彼の玄孫にあたる第23代アランデル伯爵トマス・ハワードが、1660年にノーフォーク公爵位を復権しました。

人物像と評価

トマス・ハワードは、当時のイングランドにおいて、最も裕福で、最も権力のある貴族の一人でした。しかし、その性格は優柔不断であり、政治的な判断力に欠けていたと評されています。彼は、カトリック的な心情を持ちながらも、表面上はプロテスタントとして振る舞い、そのことが、彼の悲劇的な運命を招いた一因であると考えられています。

クリストファー・ヒバートは彼を「うわべはプロテスタントだが、カトリック的心情を強く持った男」「優柔不断でありながら、誇り高い野心家」と評しています。石井美樹子は「公爵はメアリーとの結婚問題で女王の勘気に触れた後、まるで意思を失った人間のようになり、周囲の陰謀家たちの危うい行動を黙認し、巻き込まれたのであろう」と分析しています。

まとめ

第4代ノーフォーク公爵トマス・ハワードは、エリザベス朝のイングランドにおいて、その地位と富、そして悲劇的な最期によって、歴史に名を残しました。彼の生涯は、当時の政治情勢や宗教対立、そして人間の弱さや野心を浮き彫りにしています。

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