トマス・ミドルトン

トマス・ミドルトン：ジャコビアン時代の多才な劇作家

トマス・ミドルトン(1580年4月18日洗礼 - 1627年)は、イギリス・ルネサンス期のジャコビアン時代を代表する劇作家、詩人です。ベン・ジョンソン、ジョン・フレッチャーらと並び称される成功を収め、その多作ぶりでも知られています。喜劇から悲劇、仮面劇、さらにはページェントまで、幅広いジャンルで才能を遺憾なく発揮しました。

波乱に満ちた生涯

ロンドンで煉瓦積み職人の息子として生まれたミドルトンは、5歳の時に父親を亡くし、母親の再婚を巡る相続問題で15年にも及ぶ法廷闘争を経験します。この経験は、彼の作品に見られる法律家への辛辣な風刺に反映されていると考えられています。

オックスフォード大学のクイーンズ・カレッジに入学するも卒業せず、詩作活動を開始。エリザベス朝時代に流行した長詩を発表しますが、大きな成功には至らず、風刺詩が国教会と衝突して発売禁止になるなど、順風満帆とは言い難いスタートでした。

生計を立てるため、時事問題に関するパンフレットの執筆も行い、『Penniless Parliament of Threadbare Poets』は何度も版を重ね、議会でも話題になったほどです。一方、劇作家としても活動を始め、海軍大臣一座のために戯曲を執筆していました。

若い頃は気性が激しく、論争好きとしても知られ、「劇場戦争」と呼ばれる劇作家同士の激しい論争に巻き込まれました。特に、ベン・ジョンソンとは長年にわたる確執がありました。ジョンソンは、ミドルトンの大ヒット作『チェスゲーム』を痛烈に批判したと言われています。

1603年に結婚。ロンドンの劇場がペスト流行で閉鎖された時期には散文パンフレットを執筆し、劇場再開後は本格的に劇作家として活躍。多くの劇団に作品を提供し、シェイクスピアとは異なり、フリーランスとして様々な劇団に作品を提供したと考えられています。トマス・デッカーとは『女番長またの名女怪盗モル』など、いくつかの作品を共同で執筆しました。

1613年には代表作の一つである『チープサイドの貞淑な乙女』を発表。1610年代の作品には、初期の風刺的な作品に比べて穏やかな傾向が見られます。1620年にはロンドンの年代学者に任命され、亡くなるまでその職に就き、その後はベン・ジョンソンが後任となりました。しかし、公職に就きながらも劇作活動を続け、ウィリアム・ローリーとの共作である『チェンジリング』や、いくつかの悲喜劇を発表しています。

1624年に発表された風刺喜劇『チェスゲーム』は、スペインとの縁組を風刺した作品で、スペイン大使の抗議を受けて上演禁止となり、これがミドルトンの劇作活動の終焉を告げた可能性があります。1627年、ニューイングトン・バッツの自宅で亡くなりました。

作品の特徴と評価

ミドルトンの作品は、悲劇、歴史劇、都市喜劇など多岐に渡ります。『チェンジリング』、『Women Beware Women』といった悲劇や、『チープサイドの貞淑な乙女』のような風刺的な都市喜劇などが有名です。

彼の作品の特徴は、人間性に対する冷笑的な視点です。その冷笑は、時にユーモラスで、作品に登場する人物は自己中心的で、強欲、自己中心的であることが多いです。晩年の作品には、ジョン・フレッチャーの悲喜劇の影響が見られ、初期作品に比べて風刺的な怒りが穏やかになっています。

ミドルトンの作品は、アルジャーノン・チャールズ・スウィンバーンやT・S・エリオットなど多くの文芸評論家から高い評価を受けており、エリオットはシェイクスピアに次ぐ劇作家と評したと言われています。20世紀後半から21世紀にかけて、多くの作品が再演され、高い人気を誇っています。また、『復讐者の悲劇』は映画化もされています。

主要作品リスト

ミドルトンの作品には、合作や作者が不明確な作品も含まれています。以下に代表的な作品を挙げます。

戯曲
『チープサイドの貞淑な乙女』
『チェンジリング』(ウィリアム・ローリーとの共作)
『女番長またの名女怪盗モル』(トマス・デッカーとの共作)
『復讐者の悲劇』(かつてはシリル・ターナーの作品とされていた)
『チェスゲーム』
『アテネのタイモン』(シェイクスピアとの共作の可能性)
その他多数（歴史劇、悲喜劇など）

仮面劇、ページェント
多くの王室や貴族のための祝祭劇を創作

詩、散文
* 詩、パンフレット、翻訳など幅広い作品を発表

ミドルトンの作品は、その複雑な人生経験と鋭い社会風刺、そして多様なジャンルへの挑戦によって、現代においても高く評価されているのです。

もう一度検索