トム・フレッシュ

トム・フレッシュ（フランス語: tome fraîche、tomme fraîche）とは、フランスの中央高地、特にオーブラック地方で古くから作られている、牛乳を原料とした圧搾カードの一種です。

これは、チーズを製造する過程で生まれる中間生成物であり、最終的なチーズの形態をとる前の、ごく初期の段階を指します。牛乳を凝固させてカード（凝乳）を作り、そこから水分（ホエイ）をしっかりと除いて圧搾したものがトム・フレッシュとなります。

その最大の特徴は、非常に若い状態であることです。熟成期間はわずか数時間程度しか経ておらず、塩分も全く加えられていません。このため、風味は非常に穏やかで、フレッシュなミルクのニュアンスが感じられます。名前自体も、フランス語で「若いチーズ」を意味し、これはオーブラック地方を含む地域で話されるオック語で「若いチーズ」を指す「toma」という言葉がフランス語に取り入れられたことに由来するとされています。

トム・フレッシュは、フランスを代表するAOC（原産地呼称統制）チーズであるカンタル、ライオール、サレールといった、元々は同系統のチーズを熟成させる前の段階として認識されています。これらのチーズは、トム・フレッシュを特定の形状に成形し、適切な条件下で長期間熟成させることによって完成します。

製造工程におけるトム・フレッシュの位置づけは重要です。牛乳が凝固してカードとなった後、圧搾によって余分な水分が取り除かれ、その後、特定のチーズへと成形され、熟成庫へと運ばれることになりますが、その成形・熟成工程に移る直前の状態がトム・フレッシュなのです。

その形状は、伝統的な形態では非常に大きな塊であることが特徴です。水分がしっかりと抜かれたカードは、圧縮されてブロック状になり、その重量は20kgから大きいものでは45kgにも及ぶ巨大なものとなります。ただし、近年では一般消費者やレストランでの使いやすさを考慮し、2kgから5kg程度の小さなパックに詰められて流通することも増えています。

トム・フレッシュの主な用途としては、そのまま食されることもありますが、加熱して調理に使われることが多いです。特に、ライオールのトム・フレッシュを用いて作られる「アリゴ（Aligot）」は、オーブラック地方を代表する郷土料理として非常に有名です。アリゴは、茹でたジャガイモのピュレに熱したトム・フレッシュ、バター、ニンニクなどを加えて、餅のように粘りが出るまで混ぜ合わせた料理で、その独特の食感と風味が多くの人々に愛されています。

なお、フランス語の「トム（tome, tomme）」という単語は、トム・フレッシュだけでなく、サヴォワ地方やスイスで作られる牛乳を原料とするチーズ、あるいはフランス南東部で作られる山羊乳や羊乳を原料とするチーズ全般を指す総称としても用いられる場合があり、文脈によって異なる種類のチーズを指すことがあるため注意が必要です。

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