トライアンフ・TR

トライアンフTRシリーズ：英国が生んだスポーツカーの系譜

トライアンフTRシリーズは、イギリスの自動車メーカー、トライアンフが1953年から1981年にかけて生産したスポーツカーです。TRとはTriumph Roadsterの略称で、その歴史は、プロトタイプに終わったTR1から始まり、TR8まで実に7つのモデルが市場に送り出されました。それぞれのモデルは時代の技術革新や市場のニーズを反映し、デザインや性能、そして生産背景において様々な変化を遂げました。本稿では、TRシリーズ各モデルの特徴と歴史を詳細に解説します。

TR1 (1952年)：アメリカの市場を睨んだ、8週間で生まれたプロトタイプ

1952年秋のロンドンモーターショーで初公開されたTR1は、主にアメリカ市場向けに開発されたプロトタイプでした。MG TDとジャガーXK120の間に位置する市場をターゲットに、わずか8週間という短期間で開発されました。特徴的なのは、後のTR2、TR3、TR3Aにも受け継がれる、起伏の多いフェンダーと寄り目のヘッドライトを持つデザインです。シャシーはスタンダード・トライアンフの既存モデルをベースに、トライアンフ・メイフラワーのサスペンションを組み合わせ、スタンダード・ヴァンガードのエンジンを搭載していました。軽量な車体と高出力エンジンにより、最高速度は144km/hに達する高性能ぶりを発揮しました。このプロトタイプは、そのスタイリングの良さから市販化が決定され、さらなる改良が加えられることになります。しかし、8週間という開発期間では操縦性など技術的な課題が残されたままだったのも事実です。

TR2 (1953-1955年):　改良を経て本格的な市販モデルとしてデビュー

TR1をベースに、操縦性の向上とエンジン性能の強化を図ったTR2は、本格的な市販モデルとして誕生しました。BRMの開発エンジニア、ケン・リチャードソンの協力を得て、フレーム強化、エンジンチューンナップを行い、最高速度170km/h、0-400m加速18.6秒という、当時としては高い性能を実現しました。テール部分の延長によりトランクも装備され、実用性も向上しました。価格もMG TFよりわずかに高く、ジャガーXK120の半額以下と、コストパフォーマンスの高さが魅力でした。また、ラリーや耐久レースで好成績を収め、トライアンフのブランドイメージを大きく向上させました。

TR3 (1955-1957年)とTR3A (1957-1961年):　マイナーチェンジで進化を続ける

TR3はTR2のマイナーチェンジ版で、格子状のフロントグリルが特徴です。エンジン出力も向上し、最高速度175km/hに到達しました。TR3Aでは、ヘッドライトの位置変更、フロントグリル幅の拡大、外部ドアハンドルの追加など、デザイン面での改良が加えられました。しかし、重量増加に伴い、エンジン出力もさらに向上させています。TR3Aはシリーズの中でも最も多く生産されたモデルとなりました。TR3Bは対米輸出用に少数生産されたモデルです。

TR4 (1961-1965年)とTR4A (1961-1965年):　イタリア人デザイナーによる新型ボディ

TR4では、イタリア人デザイナー、ジョヴァンニ・ミケロッティによる、全く新しいボディデザインが採用されました。しかし、シャシーはTR3と同様の梯子型フレームを踏襲しており、ハンドリングや乗り心地は時代遅れになりつつありました。TR4Aは、後輪サスペンションを独立式に変更することで、大幅な乗り心地の向上を実現しました。デザイン面ではフロントグリルやサイドモールが変更され、ダッシュボードも木目調に変更されました。

TR5 (1967-1968年):　燃料噴射エンジン搭載で性能向上

TR5は、トライアンフ2500PIと同じ2498ccの燃料噴射エンジンを搭載し、最高速度200km/hを達成するなど、シリーズ最高の性能を誇りました。しかし、アメリカ市場向けには排気ガス規制に対応したキャブレター仕様のTR250が輸出されました。

TR6 (1969-1976年):　ドイツのカロッツェリアによるデザイン刷新

TR6は、ドイツのカロッツェリア、カルマンによるボディデザインの刷新が大きな特徴です。フロントサスペンションにスタビライザーが追加され、タイヤも大型化されるなど、操縦性の向上に力が入りました。エンジンは本国向けが燃料噴射式、アメリカ向けはキャブレター式でした。

TR7 (1974-1981年)とTR8 (1978-1981年):　時代の変化に対応したモデル

TR7は、アメリカでのオープンカー規制を予測し、2ドアクーペボディのみで開発されました。日産フェアレディZを意識したデザインが特徴的です。TR8は、TR7のアンダーパワーを解消するため、ローバーV8エンジンを搭載したモデルです。しかし、品質面で課題が残されたままとなり、生産台数は少なくなりました。TR7には、後にオープンモデルのTR7ドロップヘッドが追加されました。

まとめ

トライアンフTRシリーズは、その誕生から生産終了まで、常に時代の変化に対応しながら進化を遂げてきました。軽量で高性能なスポーツカーとして人気を博した初期のモデルから、アメリカ市場を意識したモデル、そして時代の安全基準や排ガス規制に対応したモデルへと、その姿を変えながらも、英国スポーツカーの伝統を受け継いできたと言えるでしょう。モータースポーツでの活躍も記憶に残るものがあり、その歴史は、多くの愛好家に語り継がれることでしょう。

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