トラック野郎

トラック野郎：日本映画史に残る伝説のロードムービー

『トラック野郎』は、1975年から1979年にかけて東映が製作・配給した、全10作からなる日本映画シリーズです。派手な装飾を施したデコトラ（デコレーショントラック）を駆る運転手、星桃次郎（菅原文太）と、その相棒である松下金造（愛川欽也）の活躍を中心に、痛快なストーリーと人情味あふれる人間模様が描かれています。単なるカーアクション映画にとどまらず、日本の祭りや風俗文化も取り入れ、大衆娯楽活劇として国民的な人気を博しました。

誕生秘話：ルート66からトラック野郎へ

本作の企画は、愛川欽也がアメリカドラマ『ルート66』のようなロードムービーを制作したいという構想から始まりました。しかし、当時40歳だった愛川自身が出演するには無理があると考え、新たな着想を探していました。

そんな中、愛川はNHKのドキュメンタリー番組で、電飾を施したトラックが高速道路を走る映像を目にします。この光景からインスピレーションを得て、トラック運転手を主人公にした映画の企画を、菅原文太と共に東映の岡田茂社長に持ち込み、驚きのスピードで承認を得ました。 タイトルの『トラック野郎』は、東映東京撮影所企画部長の天尾完次の命名です。

当初、監督の鈴木則文は岡田社長から企画を却下されました。しかし、他の作品の制作が頓挫したため、急遽『トラック野郎』が制作されることになり、わずか2ヶ月の準備期間で撮影が始まりました。

実は、この企画には菅原文太の会社への反発も絡んでいました。当時の菅原は、東映の実録ヤクザ映画路線への反感を抱いており、新たな企画として『トラック野郎』を選んだという背景があります。

内容：寅さんとは対照的な男気と下ネタ

『トラック野郎』は、ライバル作品であった『男はつらいよ』を意識しつつも、対照的な魅力を持っています。寅さんの「静・雅」に対して、桃次郎は「動・俗」を体現しており、下ネタや喧嘩、派手なカーアクションといった、寅さんでは考えられない要素が物語を彩っています。

特に下ネタシーンは、現在の視点からは過激な描写も含まれていましたが、未成年者のファン増加を踏まえ、シリーズ後半ではそのようなシーンが減っていく傾向が見られます。

物語の中心は、桃次郎が各地で出会うマドンナへの恋、個性的なライバルとの対決、そして仲間との友情です。全国各地の祭りを舞台にした華やかな描写や、当時人気のコメディアン・落語家らの出演も本作の魅力の一つです。

クライマックスでは、桃次郎は時間との闘いを繰り広げ、警察の追跡を振り切りながら目的地を目指します。多くの場合、警察車両が派手に大破するシーンがあり、警察庁からクレームも寄せられたと言われています。

車両：デコトラと哥麿会の協力

劇中に登場するトラックは、実在のデコトラグループ「哥麿会」の全面的な協力の下、製作されました。一番星号やジョナサン号といったトラックは、最初は廃車を譲り受けたものだったものの、シリーズ化決定後には東映が新古車を購入し、最終作まで使用されました。

キャスト：菅原文太と愛川欽也の黄金コンビ

菅原文太と愛川欽也は全10作に出演し、シリーズの顔として人気を博しました。その他、春川ますみ、宮崎靖男らもレギュラーとして多く出演しています。特に宮崎靖男は、哥麿会初代会長として、映画製作に多大な貢献をしました。

シリーズ終了：様々な要因が重なり

シリーズ終了の理由は、いくつか考えられます。興行収入の減少、大作路線へのシフト、警察からのクレーム、そして菅原文太のNHK大河ドラマ出演など、様々な要因が重なった結果と見られています。

当時の映画雑誌の記事などを見る限り、東映側は明確な打ち切りを発表せず、徐々にシリーズを終了させていったと見られます。多くのスタッフがシリーズの継続を望んでいたものの、結果的にうやむやに幕を閉じたようです。

シリーズ終了後の反響

シリーズ終了後も、『トラック野郎』の影響は広く残っています。デコトラブームの火付け役となったこと、ゲーム『爆走デコトラ伝説』シリーズへの影響など、現在でもその名を知られる作品となっています。菅原文太、愛川欽也の死去後も、両者を追悼する形でテレビ番組で再放送されるなど、根強い人気を誇っています。

結論：時代を超える魅力

『トラック野郎』は、単なる娯楽映画を超えた社会現象を巻き起こしました。デコトラ文化の発展に貢献し、独自のキャラクターとストーリーで人々の心を捉え、現在も多くのファンを魅了し続けています。その魅力は、時代を超えて受け継がれる、日本の映画史における重要な作品と言えるでしょう。

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