トランシルヴァニア・ザクセン人

トランシルヴァニア・ザクセン人：歴史、文化、そして現代

トランシルヴァニア・ザクセン人は、中世以降、トランシルヴァニア地方（現在のルーマニアの一部）に移住したドイツ系住民を指します。彼らは、ハンガリー王国の要請を受け、国境防衛や経済発展に貢献した歴史を持ちます。本稿では、彼らの歴史、文化、社会構造、宗教、そして近現代における変遷について詳細に探ります。

植民と定住：ハンガリー王国との関係

12世紀半ば、ハンガリー王ゲーザ2世は、国境防衛を目的としてドイツ人をトランシルヴァニアへ招致しました。主に神聖ローマ帝国西部出身者で、フランケン方言を話す者たちが移住し、ザクセン人と呼ばれました。これは、当時ハンガリーで活躍したザクセン出身の官僚の影響によるものです。

最初の定住地は、ヘルマンシュタット（シビウ）周辺のアルトラント地方でした。彼らは、採掘技術や経済発展の能力も持ち込み、ハンガリー王国に貢献しました。13世紀に入ると、ラインラントや低地諸国などからも移住者が増加し、ネースナーラント（ビストリツァ周辺）など新たな定住地が形成されました。

1211年には、ハンガリー王アンドラーシュ2世がブルツェンラント地方の防衛のためドイツ騎士団を招聘しましたが、1225年に追放されています。それでも、ザクセン人による植民は継続し、東部へ拡大していきました。

中世の社会構造と宗教

ドイツ騎士団の撤退後も、ザクセン人はトランシルヴァニアに定住し、ハンガリー王から一定の自治権を認められました。彼らは、ハンガリー貴族やセーケイ人（ハンガリー系遊牧民の子孫）とともに、特権階級を形成しました。

宗教的には、当初はカトリックが主流でしたが、宗教改革期には大部分がルター派に改宗しました。トランシルヴァニア公国は宗教寛容な国であり、ザクセン人は独自の信仰を維持することができました。重要な宗教組織としては、シトー会修道院やケルツ修道院などが挙げられます。

防衛と都市発展

13世紀にはモンゴル襲来による被害を受けましたが、その後、多くの定住地が石造りの城で強化されました。特に、要塞教会（Kirchenburg）を備えた都市は発展し、「ジーベンビュルゲン（七つの要塞都市）」と呼ばれる都市群が形成されました。これには、ビストリッツ、ヘルマンシュタット、クラウゼンブルク、クロンシュタット、メディアシュ、ミュールバッハ、シェースブルクなどが含まれます。

三カ国連合と特権的地位の変遷

1438年、ハンガリー貴族、セーケイ人、ザクセン人の三カ国連合が成立しました。この連合は、ルーマニア人小作農を除いた特権階級の政治的権利を保障するものでした。

しかし、18世紀末、ヨーゼフ2世帝による三カ国連合廃止の試みなど、ザクセン人の特権的地位は徐々に弱体化していきます。1848年革命では、彼らはルーマニア人の政治的権利獲得を支持する動きも見せましたが、ハンガリー化政策などにより、その地位は低下しました。

第一次世界大戦後と第二次世界大戦

第一次世界大戦後、トランシルヴァニアがルーマニアに編入されると、ザクセン人は少数民族としての権利を認められました。しかし、戦後の農地解放で土地を失う者もいました。

第二次世界大戦中は、一部のザクセン人がナチス・ドイツに協力しましたが、1944年以降、多くがドイツへ追放されたり、ソ連へ送られたりしました。その後、ルーマニア共産主義政権下で迫害を受け、多くの政治的権利を失いました。

戦後の移住と現代

戦後、多くのザクセン人がドイツへ移住し、ルーマニア在住のザクセン人人口は激減しました。現在もルーマニアにはザクセン人コミュニティが存在しますが、かつてのような政治的影響力は持っていません。2014年には、トランシルヴァニア・ザクセン人出身のクラウス・ヨハニスがルーマニア大統領に就任するなど、新たな展開も見られます。

まとめ

トランシルヴァニア・ザクセン人の歴史は、ハンガリー王国との複雑な関係、宗教改革、民族間の競争、そして政治的変動に満ちたものです。彼らの歴史は、中世から現代までのヨーロッパの政治、文化、宗教の変化を理解する上で重要な視点を与えてくれます。彼らの遺産は、トランシルヴァニア地方の文化や景観に深く刻み込まれており、現代においても、様々な形でその影響が続いています。

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