トランシルヴァニア公国

トランシルヴァニア公国

トランシルヴァニア公国（Erdélyi Fejedelemség、Principatus Transsilvaniae）は、現代のルーマニアにあたるトランシルヴァニア地方を中心に1571年から1711年まで存在した半独立の公国です。この地域は、カルパチア盆地の東部に位置し、オスマン帝国の宗主権が及ぶ同時に、ハンガリー王国との複雑な関係がありました。公国は、主にハンガリー人、セーケイ人、ザクセン人など多くの民族が共存する場所として知られています。

歴史的な背景

トランシルヴァニア公国の歴史は、1526年のモハーチの戦いに遡ります。この戦いでのオスマン帝国の勝利が、ハンガリー王国の分裂を招き、その結果、トランシルヴァニアが形作られることとなります。オスマン帝国のスルタン、スレイマン1世は、ハンガリーの権力を掌握し、トランシルヴァニアを東ハンガリー王国の一部として位置づけました。

その後、1541年に東ハンガリーがオスマン帝国の支配下に置かれ、トランシルヴァニアはオスマン帝国の庇護を受けながらも、独自の国家としての地位を確立していきました。この時期、トランシルヴァニアの貴族たちはオーストリアとオスマン帝国との間で外交努力を行いつつ、自らの権限を維持しようとしました。

政治と信仰の自由

トランシルヴァニアでは、宗教的多様性が特徴の一つでした。1568年には「トゥルダの勅令」により、カトリック、ルター派、カルヴァン派、ユニテリアンの信仰が公式に認められました。しかし、東方正教徒は制限されていました。この信仰の自由がトランシルヴァニアを特異な存在にし、地域におけるプロテスタントの影響力を強める要因ともなりました。

バートリ家が権力を掌握した1571年以降、トランシルヴァニア公国は半独立国家としての地位をさらに強固なものにし、以降の支配者も信仰の自由を尊重する政策を推進しました。特に、ベトレン・ガーボルとラーコーツィ・ジェルジュ1世の治世には、トランシルヴァニアの発展と文化の隆盛が見られました。

黄金期と衰退

トランシルヴァニアの黄金期とも呼ばれるこの時代には、教育や文化が重視され、地域の発展が促進されました。アルバ・ユリアは重要なプロテスタントの拠点として知られるようになり、プロテスタント勢力が地域内で平和に共存する様子が見られました。

しかし、非情な運命が訪れます。ラーコーツィ・ジェルジュ2世が戦闘で戦死した後、トランシルヴァニアは混乱に陥り、オスマン帝国とハプスブルク帝国との闘争の影響を受けるようになります。後に公国はハプスブルク家によって縮小され、1699年のカルロヴィッツ条約において正式にハプスブルク帝国の一部となりました。

結局、1711年にはトランシルヴァニアは完全にハプスブルク帝国の統治下となり、独自の公国としての存在は消失しました。このようにトランシルヴァニア公国は、一時的な栄光と長い歴史を持ちながらも、やがてその自治を失い、歴史の舞台から姿を消すこととなったのです。

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