トランスニストリア戦争

トランスニストリア戦争：沿ドニエストルとモルドバの対立

トランスニストリア戦争は、1992年5月2日から7月21日にかけて、沿ドニエストル共和国とモルドバ共和国の間で発生した武力紛争です。この戦争は、両地域の歴史的背景、民族構成、言語政策の違いが複雑に絡み合った結果として起こりました。

歴史的背景

ドニエストル川東岸のトランスニストリア地域は、歴史的にモルダビア公国やベッサラビアに属していませんでした。1940年にソ連が占領する以前、ベッサラビアはルーマニアに帰属していた一方、トランスニストリアはウクライナ・ソビエト社会主義共和国の一部と、モルダヴィア自治ソビエト社会主義共和国の一部によって構成されていました。1980年代末の時点で、トランスニストリアの人口構成はモルドバ人が少数派であり、ロシア人やウクライナ人が多数を占めていました。この地域では、ペレストロイカによる民族主義の高まりとは逆に、親ロシア運動が展開されました。

紛争の勃発

1989年、モルダビアは公用語をモルドバ語に定め、ラテン文字の使用を決定しました。また、ルーマニアとの国境が部分的に開放されたことで、トランスニストリアのスラブ系住民は、モルドバとルーマニアの統合を危惧しました。彼らはモルドバ語を話せず、ソ連各地から移住してきた人々で、経済的に成功していたため、モルドバからの独立を強く望みました。
1990年6月、モルダビア・ソビエト社会主義共和国がソ連からの主権回復を宣言すると、モルドバ政府はトランスニストリアの分離派を弾圧しようとしました。同年9月、トランスニストリアは沿ドニエストル共和国としてモルドバからの独立を宣言し、モルドバは1991年8月にモルドバ共和国として独立しました。両地域の対立は激化し、1992年に武力衝突へと発展しました。

戦争の経過

モルドバは国防省を創設し、軍隊を編成しました。ルーマニアから武器の供給や軍事教官、志願兵の支援を受けました。一方、沿ドニエストル共和国は、ロシア陸軍第14軍の支援を受けました。ロシア国内からはコサックを中心とした志願兵が多数参加し、ウクライナからも志願兵が送られました。

1992年5月2日、モルドバは国連に加盟し、国際的な承認を得ると、同日に軍事行動を開始しました。ドゥベサリでの戦闘を皮切りに、両勢力は激しく衝突しました。モルドバ側はベンデルなど、西岸の町への攻撃も行いました。都市部では市街戦が展開され、多くの民間人が犠牲になりました。最終局面では、ドニエストル川に架かる橋を巡る争奪戦が繰り広げられ、ロシアの支援を受けた沿ドニエストル共和国が勝利しました。

戦後

1992年7月21日、ロシアのエリツィン大統領とモルドバのスネグル大統領の間で休戦協定が締結されました。ロシア、モルドバ、沿ドニエストル共和国の三者による平和維持軍(Joint Control Commission: JCC)が設立され、停戦監視活動にあたりました。

この紛争では、双方合わせて約1,500人が死亡しました。難民は比較的少なかったものの、救急車や民家への攻撃が頻発するなど、悲惨な状況でした。戦況を決定づけたのは、ロシア第14軍の圧倒的な戦力でした。紛争後、ロシアは第14軍を解体し、平和維持活動に1,300人まで兵員を削減しました。


トランスニストリア戦争は、民族間の対立、外部勢力の介入、領土問題を複雑に抱えた紛争であり、その影響は現在も続いています。

もう一度検索