トラヴェリング・マイルス

『トラヴェリング・マイルス』：カサンドラ・ウィルソンのマイルス・デイヴィスへのオマージュ

1999年、ジャズ界の重鎮、カサンドラ・ウィルソンは自身のアルバム『トラヴェリング・マイルス』を発表しました。本作は、ウィルソンのオリジナル曲に加え、ジャズ界の巨匠マイルス・デイヴィスのレパートリーから厳選された楽曲の数々を、ウィルソン独特の解釈で再構築した意欲作です。

アルバム全体を彩る、ウィルソン独自のボーカルスタイルは、マイルス・デイヴィスの音楽性と見事に融合。既存の楽曲に新たな魅力を吹き込みつつ、彼女自身の音楽的な個性を鮮やかに主張しています。マイルス・デイヴィスの楽曲へのリスペクトと、それを超える独自の解釈が感じられる、まさにウィルソン節全開の作品と言えるでしょう。

収録楽曲は、マイルス・デイヴィスの代表作からの選曲が多く、ジャズファンにとって垂涎のラインナップとなっています。『ビッチェズ・ブリュー』からの「ラン・ザ・ヴードゥー・ダウン」や、『セヴン・ステップス・トゥ・ヘヴン』からの「セヴン・ステップス」などは、ウィルソンによって新たに歌詞が加えられ、新たな命を吹き込まれています。また、『カインド・オブ・ブルー』の名曲「ブルー・イン・グリーン」は、「スカイ・アンド・シー」として、ウィルソンが作詞した歌詞が付け加えられ、収録されています。

さらに、シンディ・ローパーのヒット曲「タイム・アフター・タイム」のカバーも収録されており、ジャズアレンジによる独特の雰囲気は、原曲とはまた違った魅力を放っています。この楽曲は、映画『ブラウン・シュガー』のサウンドトラックとしても使用され、より広い層に知られることとなりました。

オリジナル曲もアルバムの大きな魅力の一つです。「トラヴェリング・マイルス」、「ライト・ヒア・ライト・ナウ」、「ホエン・ザ・サン・ゴーズ・ダウン」、「ネヴァー・ブロークン」など、ウィルソンの洗練された音楽センスと表現力が際立つ楽曲が並びます。これらの曲は、マイルス・デイヴィスの楽曲と並び、アルバム全体に深みと奥行きを与えています。

商業的な成功も収めており、アメリカではBillboard 200で158位、ジャズ・アルバム・チャートでは堂々の1位を獲得しました。ヨーロッパでも高い評価を受け、ノルウェーでは自己最高の24位を記録するなど、グローバルな人気を誇っています。日本でもオリコンチャートに2週に渡りランクインし、最高62位を記録するなど、高い人気を得ました。

参加ミュージシャンも豪華な顔ぶれです。マーヴィン・スーウェル、ケヴィン・ブレイト、パット・メセニーなど、ジャズ界を代表する実力派ミュージシャンたちが、ウィルソンの音楽世界を支えています。彼らの卓越した演奏によって、アルバムはより一層豊かなものとなっています。

『トラヴェリング・マイルス』は、カサンドラ・ウィルソンというジャズ・ボーカリストの才能を余すことなく発揮した、まさに傑作と言えるアルバムです。マイルス・デイヴィスの音楽への敬意と、自身の音楽性を融合させたその作品は、ジャズファンのみならず、多くの音楽愛好家を魅了し続けています。 アルバム全体を貫く、静謐で深く、それでいて力強い音楽は、聴く者に深い感動を与えてくれるでしょう。

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