ビッチェズ・ブリュー

マイルス・デイヴィス『ビッチェズ・ブリュー』：ジャズの革命と融合

1970年、マイルス・デイヴィスが発表した2枚組アルバム『ビッチェズ・ブリュー』は、ジャズの歴史において最も革新的な作品の一つとして高く評価されています。前作『イン・ア・サイレント・ウェイ』からさらにエレクトリック・ジャズの要素を深化させ、フュージョンという新たなジャンルを確立しました。

音楽的特徴

本作は、ほぼ全編にわたって16ビートを基調としており、エレクトリック楽器の使用だけでなく、リズム面でもジャズ界に大きな変革をもたらしました。一般的に「ジャズとロックの融合」と評されますが、ファンクからの影響も強く、2人のドラマーと2人のパーカッション奏者を起用することで、複雑で多様なリズムのレイヤーを構築しています。マイルスが1970年代に制作・発表したアルバムは、本作の路線を色濃く継承しています。

収録曲は、27分にも及ぶタイトル曲「ビッチェズ・ブリュー」をはじめ、10分を超える大作が中心です。唯一5分未満の「ジョン・マクラフリン」は、「ビッチェズ・ブリュー」があまりにも長いため、プロデューサーのテオ・マセロが一部を切り出して独立させたもの。ジョン・マクラフリンのギターがフィーチャーされています。また、テオ・マセロによる緻密な編集が、他のクロスオーバー作品とは一線を画す実験的なサウンドを生み出しました。

参加メンバー

メンバーは、『イン・ア・サイレント・ウェイ』からの参加者に加え、マイルス・バンドの新ドラマー、ジャック・ディジョネット、リターン・トゥ・フォーエヴァーのレニー・ホワイト、後にジャコ・パストリアスと共演するドン・アライアスなど、豪華な顔ぶれが集結。後のフュージョン・シーンを牽引する名プレイヤーたちが参加しています。ウェイン・ショーターにとっては、本作が在籍時最後のスタジオ・アルバムとなり、その後、ジョー・ザヴィヌルと共にウェザー・リポートを結成しました。

ボーナストラック

CD版には、ウェイン・ショーター作曲の「フェイオ」が追加収録されています。この曲は、1970年1月の別セッションで録音されたもので、レニー・ホワイトやハーヴェイ・ブルックスは不参加。代わりに、後にマハヴィシュヌ・オーケストラに参加するビリー・コブハム（ドラム）や、第一期リターン・トゥ・フォーエヴァーのアイアート・モレイラ（パーカッション）が参加しています。

リリース後のライブ活動

アルバム発表後、マイルスはロック・ファンを意識したライブ活動を展開しました。1970年6月には、チック・コリア、デイヴ・ホランド、ジャック・ディジョネット、アイアート・モレイラ、キース・ジャレット（オルガン）、スティーヴ・グロスマン（テナー・サックス）を率いて、ロックの殿堂フィルモア・イーストに4日間連続で出演。「ビッチェズ・ブリュー」や「サンクチュアリ」を演奏し、その模様はライブ・アルバム『マイルス・アット・フィルモア』としてリリースされました。

同年8月には、ワイト島音楽祭に出演。ジミ・ヘンドリックスやザ・フーが出演したこのイベントで、マイルスは『ビッチェズ・ブリュー』からの3曲を含むメドレー「Call It Anything（どうとでも呼んでくれ）」を披露しました。この演奏は、オムニバスCD『ワイト島1970』や、ボックス・セット『Miles Davis: The Complete Columbia Album Collection』、ライブ・アルバム『ビッチェズ・ブリュー・ライヴ』、DVD『マイルス・エレクトリック』などで聴くことができます。

評価と影響

『ビッチェズ・ブリュー』は、マイルスのアルバムとして初めてアメリカでゴールド・ディスクを獲得し、Billboard 200で自身唯一のトップ40入りを果たしました。『ローリング・ストーン』誌の「オールタイム・グレイテスト・アルバム500」（2020年版）では87位にランクインするなど、高い評価を受けています。本作は、ジャズの可能性を広げ、後の音楽シーンに多大な影響を与えた、まさに革新的な作品と言えるでしょう。

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