トリクロロフルオロメタン

トリクロロフルオロメタン（CCl3F）

トリクロロフルオロメタンは、分子式CCl3Fで示されるフロンガスの一種で、一般的にはフロン11、CFC-11、またはR-11と称されています。この物質は無色でありながらほとんどにおいがなく、室温付近で容易に沸騰する液体として知られています。その使用は過去において非常に広範囲にわたり、多くの産業で冷媒として重宝されてきました。しかし、1992年に締結されたモントリオール議定書により、この物質の製造は国際的に禁止され、日本でも特定フロンガスとして規制されています。

技術的特性と用途

かつての冷凍機や空調設備では、トリクロロフルオロメタンが主な冷媒として用いられていました。その理由は、他の冷媒に比べて沸点が高く、低い稼動圧で運用できるため、装置設計において要求される圧力が少ないことにあります。たとえば、ジクロロジフルオロメタン（R-12）やクロロジフルオロメタン（R-22）などは、より高い圧力条件を必要とするため、扱いが難しい部分がありました。しかし、トリクロロフルオロメタンはその安定性から、多くの機器で使用されていました。

特筆すべきは、トリクロロフルオロメタンが成層圏に達すると、塩素原子が紫外線によって分解される特性があるため、オゾン層を破壊する要因となることです。この物質はオゾン破壊係数が1.0とされ、冷媒の中では最も大きな影響を与えることが確認されています。アメリカでは1995年に製造が終了し、日本でも冷蔵庫やドライクリーニングの溶剤として活用されてきましたが、オゾン層保護法によって1995年末に生産が止まり、1999年以降は記録も消失しています。さらに、19F NMRの基準物質として利用されることもあります。

環境への影響と使用の疑惑

しかし、トリクロロフルオロメタンの環境への悪影響が叫ばれる中、2018年にはイギリスのNGOが中国の山東省と河北省の発泡剤製造工場からこの物質が放出されていると指摘しました。この報告を受けて、中国当局は該当する工場の閉鎖に踏み切りました。また、2019年には、中国北東部における年間放出量が2013年以降に約7000トンも増加したという研究結果が、権威あるネイチャー誌に掲載されました。

これらの報告は、トリクロロフルオロメタンの国際的な規制にも関わらず、その違法な使用が残っていることを物語っています。このように、トリクロロフルオロメタンは、冷媒としての利便性と引き換えに、環境への重大な影響を持つ物質であり、その取り扱いには十分な注意が求められています。

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