トリグブ・リー

トリグブ・リー：初代国連事務総長、その生涯と功績

トリグブ・ハルブダン・リーは、20世紀を代表するノルウェーの政治家であり、初代国連事務総長として国際社会に大きな足跡を残しました。1896年、オスロに生まれた彼は、貧しいながらも母と妹と助け合って成長し、若くして労働運動に身を投じます。労働党に入党し、党の機関紙編集長や法律顧問を歴任するなど、政治家としてのキャリアを着実に積み重ねていきました。

社会主義者としての信念と初期の活動

リーは熱心な社会主義者であり、ロシア革命を支持しました。労働党の活動を通してレーニンと会見した他、ソ連を追放されたトロツキーにノルウェーでの亡命を許可したことで知られています。この決定はスターリンの意向に反するものでしたが、リーはトロツキーの政治活動への自粛を条件に、彼の亡命を認めたのです。このエピソードは、彼の信念と、国際情勢における複雑な政治判断を垣間見せるものです。

戦時下の活躍と国連への貢献

第二次世界大戦下、ドイツのノルウェー侵攻を受け、リーはノルウェー全船舶の連合国への避難を命じました。その後、ロンドンに拠点を置く亡命政府の外務大臣に就任し、戦後処理に向けて尽力しました。

1945年のサンフランシスコ国際会議では、ノルウェー代表として国連憲章の策定に関わり、特に安全保障理事会規定の起草に重要な役割を果たしました。そして、1946年、初代国連事務総長に選出されます。これは大国間の妥協の産物であり、国連の設立直後に事務総長を選出できたことは、彼のリーダーシップと国際的な信頼の高さを示しています。

国連事務総長としての活動と課題

リーは国連事務総長として、国連本部の建設や国際連合旗の制定など、組織基盤の構築に尽力しました。イスラエルとインドネシアの建国を支援し、両国の国連加盟を推進しました。また、パレスチナにおける休戦協定の締結に際しては、国連警護隊を派遣するなど、国連初の平和維持活動に踏み切りました。さらに、イランでのソ連軍撤退、カシミール地方の停戦交渉にも尽力するなど、国際紛争の解決に大きな役割を果たしました。

しかし、彼の国連事務総長としての活動は容易ではありませんでした。朝鮮戦争では、国連軍の韓国への派遣がソ連の反発を招き、ソ連による国連ボイコットという事態を招きました。また、フランコ政権への反対や、中華人民共和国の国連承認問題など、冷戦下の国際政治における複雑な課題にも直面しました。

ベルリン封鎖への対応や朝鮮戦争の早期終結に失敗した点など、批判も存在します。これらの批判の一部は、リーが特定の勢力に影響されていたという見方と結び付けて語られることもあります。また、彼の人物像については、尊大で頑固な面もあったと評されることもあります。

国連事務総長再任と辞任

1950年、リーの任期延長が議論されました。アメリカはリー以外の人選を考えていませんでしたが、ソ連はこれを拒否しました。安全保障理事会での対立が続くなか、国連総会はソ連の反対を押し切ってリーの再任を決定しました。しかし、ソ連は引き続きリーを拒否し、彼への連絡を「事務局宛」として送付するなど、国連内部の対立は解消されませんでした。さらに、マッカーシー上院議員からの批判にも直面したリーは、1952年に辞任を余儀なくされました。

国連退任後と晩年

国連事務総長退任後も、リーはノルウェーの政治に積極的に関与し、地方行政や政府要職を歴任しました。また、『平和のために：国際連合との7年間』などの著書を残し、国連での経験や考えを後世に伝えました。1968年、心臓発作のため72歳で死去しました。

リーに対する評価

リーに対する評価は様々です。国連組織をゼロから構築した功績を高く評価する声がある一方、外交上の失敗を指摘し、低い評価を与える声もあります。しかし、冷戦という困難な時代において、国連という国際機関の設立と発展に大きく貢献したことは、歴史的事実として認められています。彼の功績と批判を多角的に理解することで、20世紀の国際政治と国連の歩みをより深く理解することができるでしょう。

もう一度検索