トリコデルマ

トリコデルマ (Trichoderma) の概要

トリコデルマは、フンタマカビ綱に属する真菌で、主に無性世代の際に緑色の胞子を生成し、ツチアオカビとも呼ばれています。また、有性世代では球形の子実体を形成し、ボタンタケとして知られています。これらの菌は、主に森林の土壌や朽ちた木材などに広く分布していますが、時にはキノコ栽培において悪影響を及ぼすことがあります。

特徴

トリコデルマの特徴は、急速な成長と優れた分生子の形成です。このカビは寒天培地上では非常に薄いコロニーを広げた後に分生子を形成し始めます。分生子の生成はフィアロ型と呼ばれ、フィアライドと呼ばれる紡錘形の細胞の先端から連続して出芽します。この工程において、形成された分生子が液滴の中に現れる点が特徴です。トリコデルマでは、古い分生子が前に送られて数珠状にならず、代わりに液体が充満した粒の中に次々と分生子が送り出され、団子状になります。

分生子柄は、主に集まって生成され、培地中の菌糸あるいは空気中の菌糸から立ち上がり、何度も分枝を繰り返します。分枝は主軸からほぼ直角に出て、互いに対になって配置され、先端には三つのフィアライドが付き、分生子の団子が形成されます。全体の形状は、樹枝状の美しい姿が見られる反面、古くなると団子が合体し、見栄えが損なわれることがあります。また、初期にはコロニーのあちこちに白緑色の粉状の塊が見られた後、緑色の粘着性を帯びていく様子も観察されます。

このカビは、野生でも容易に見つけることができ、湿度の高い枯れ木の表面にしばしば見られます。しかし、類似の見た目を持つグリオクラディウムというカビも存在するため、識別には注意が必要です。

完全世代

トリコデルマの完全世代では、子実体が形成され、子座と呼ばれる菌糸で構成されたマットに埋もれた状態で見られます。外観は、もこもこした菌糸の集まりで、表面上には黒い点が並んでいることがしばしば観察されます。一般的に明るい赤色を呈しており、朽ちた木や硬いキノコの表面に形成されることが多いです。

分類

現在、トリコデルマ属には250種以上が認識されています。1960年代には主に1種（T. viride）のみが知られていましたが、研究が進んで100種以上に分類が細分化されました。有性世代はボタンタケ属やツノタケ属に分類され、2013年からは無性世代と有性世代で単一の学名が使用されています。日本では、特に以下の種が多く見られます:

• - T. alutaceum (ツノタケ)
• - T. cerebriforme (オオボタンタケ)
• - T. citrinoviride (クロボタンタケ)
• - T. citrinum (キボタンタケ)
• - T. cornu-damae (カエンタケ)
• - T. gelatinosum (オリーブボタンタケ)
• - T. lixii (カラスノボタンタケ)
• - T. peltatum (オオボタンタケ)
• - T. pulvinatum (キンセイボタンタケ)
• - T. viride (アカボタンタケ)

近縁なカビ

トリコデルマと似た分生子形成型や分枝を持つ異なる菌類にはグリオクラディウムが含まれます。主軸が短く、分枝が向上する点が異なり、外観も大きく変わりますが、緑色のコロニーの形状が似ているため、見分けが難しいことがあります。

人間とのかかわり

トリコデルマは一般的に森林の土壌や植物の残骸が豊富な環境に多く分布しており、特に枯れ木や朽ち木に繁茂します。このカビは土壌菌の分離においても重要であり、他のカビの生育を抑制する物質を分泌するため、他の菌の発生を減少させることがあります。この性質により、キノコ栽培においては注意が必要で、特にシイタケの栽培においては害菌として見なされることがあります。シイタケトリコデルマ病や茎膨れ病といった問題を引き起こすため、これを防ぐための薬剤が開発されています。

逆に、このカビの特性を生かして、他の病害を防ぐ目的で土壌に接種する方法も実用化されています。さらに、トリコデルマから得られる抽出物はキノコ菌の育成にも利用され、抗生物質を分泌する種も知られています。たとえば、Trichoderma virideは1960年代に21種のアミノ酸から成る抗生物質であるAlamethicinを分泌することが発見されました。また、水稲の育苗中に感染し、苗立枯病の原因となることもあります。

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