トリスを飲んでHawaiiへ行こう!

トリスを飲んでHawaiiへ行こう！キャンペーン：夢を売った広告の成功

1961年、サントリー（当時寿屋）が展開した「トリスを飲んでHawaiiへ行こう！」キャンペーンは、日本の広告史に大きな足跡を残しました。このキャンペーンは、山口瞳が手掛けたキャッチコピーと、柳原良平が描いたイラストによって、当時の日本社会に大きなインパクトを与えたのです。

夢への誘い：キャンペーンの内容

キャンペーンは1961年9月に開始されました。1等賞はハワイ旅行積立預金証書（100名）、2等はトリスハイボール（150万名）、そして残念賞として現金1万5千円（400名）が用意されました。当時、海外旅行は自由化されておらず、ハワイ旅行は庶民にとって夢のような存在でした。そのため、1等賞は積立預金証書という形で提供され、海外旅行自由化後にハワイ旅行が実現する仕組みとなっていました。

キャンペーン期間中は、トリスウイスキーの大瓶には2枚、ポケット瓶には1枚の抽選券が封入されており、当選番号は翌年1月に発表されました。1等と残念賞の当選者は、抽選券を寿屋に送付することで賞品を受け取ることができ、2等は酒販店で引き換えることができました。

広告媒体としては、新聞広告やテレビCMが活用されました。新聞広告には、レイを首にかけたアンクルトリスとハワイ各島の地図が掲載され、テレビCMでもアロハシャツを着たアンクルトリスが登場し、人々の記憶に強く刻まれました。

1964年4月、海外旅行が自由化されると、1等当選者たちはハワイへの旅に立つはずでした。しかし、当選者の多くは賞金を現金で受け取ることを選択したため、実際にハワイへ行ったのはわずか4名でした。このキャンペーンは、その後も1978年、2004年、そして2024年には「トリスでハワイ！キャンペーン」として継続され、2018年にはサントリーのBOSSシリーズでも同様のキャンペーンが行われました。

名コピーの誕生：山口瞳の苦闘

「トリスを飲んでHawaiiへ行こう！」というキャッチコピーは、当時寿屋の宣伝部に所属していた山口瞳によって生み出されました。山口は、既に柳原良平によって完成していたイラストを元に、読者の心に響くコピーを制作するため、試行錯誤を繰り返しました。机の下に潜ったり、暗室で寝転がったりしながら、言葉と格闘した結果、この名コピーが生まれたのです。山口自身も、このコピーの表記は「トリスを／飲んで／Hawaiiへ／行こう！」であるべきだと主張し、変更されることに強いこだわりを見せていました。

社会現象と時代を先取りした広告：成功の理由

このコピーは大きな反響を呼び、1961年の流行語にもなりました。山口瞳にとって、これは広告コピー作家としての出世作となりました。当時の日本は高度経済成長期にあり、レジャーブームが到来していました。「レジャー」という言葉自体が流行語となり、日本航空の国内線乗客数は100万人を突破していました。しかし、海外旅行はまだ一般庶民には遠い夢でした。

「トリスを飲んでHawaiiへ行こう！」は、庶民的な酒であるトリスと、非日常的な憧れであるハワイを組み合わせることで、人々の想像力を刺激し、大きなインパクトを与えたのです。 「買って」ではなく「飲んで」という表現や、「Hawaii」という表記も、新鮮な驚きを与えた要素でした。

天野祐吉は、このコピーにおける「Hawaii」の表記に新鮮な驚きを感じたと述べており、坪松博之は、このコピーに山口瞳の「語りかけ」という特徴を見出しています。また、サントリーの佐治敬三も、このコピーを「端的であって、夢がある。ごっついコピーやったな、あれは」と高く評価しています。

参考文献

天野祐吉『サントリー―時代を広告する世界を広告する』日本実業出版社、1977年9月
岡田芳郎『日本の企画者たち ～広告、メディア、コンテンツビジネスの礎を築いた人々～』宣伝会議、2016年3月
北康利『佐治敬三と開高健 最強のふたり』講談社、2015年6月
他多数

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