トリノ王名表

トリノ王名表

古代エジプトのファラオの系譜を伝える貴重な史料として知られる「トリノ王名表」は、パピルスに記された歴代の支配者リストです。この文書は、サルディニア王のコレクションに由来し、イタリアのトリノにあるエジプト博物館で発見されたことから、この名で呼ばれるようになりました。現在も同博物館に収蔵されています。

パピルスに記されているため、時間の経過と共に多くの部分が失われています。しかし、エジプト人自身が古代の王統を記録した中でも、その網羅性と体系性において最も重要な文書の一つと見なされています。特に、紀元前13世紀のラムセス2世の時代より以前の歴史、特に第2中間期における複数の王朝や短命な支配者に関する情報は、他の史料では得られないものが多く含まれており、この時代の歴史を再構築するための基礎資料となっています。

現在、トリノ、ベルリン、コペンハーゲンの三つのエジプト博物館は共同でこの王名表の復元と研究を進めています。2022年には、現存する断片をつなぎ合わせる作業がほぼ完了したと発表され、今後の研究進展が期待されています。

内容

王名表は、文書の冒頭部分と末尾が失われているため、全体像は不明です。特に、制作されたと考えられる第19王朝以降のファラオについては記載がありません。リストには、王の名前とともに在位年数が記されており、中には月単位、日数単位まで詳細に記録されている場合もあります。王は家系ごとにまとめられている箇所もあり、これは古代ギリシャの歴史家マネトが記した記録とも一致する部分が見られます。他の史料には登場しないような、わずかな期間だけ支配した王や小規模な支配者についても記録されている点が特筆されます。

文書は11のコラムに分かれています。特に関心を集めるのは第10コラムで、ここでは第15王朝に属するヒクソスの王たちの名が記されています。彼らの名は、一般的なエジプトの王を示す楕円形の枠（カルトゥーシュ）ではなく、エジプト外部から来たことを示す独特な記号が付されています。また、第11コラムには、第2中間期にテーベを拠点とした第16王朝（土着王朝説）の王たちが記録されていると考えられています。残念ながら、第17王朝に関する部分はパピルスの損傷が激しく、内容は失われています。さらに、この王名表には第18王朝や第19王朝のファラオの名前は含まれていないと推測されています。

制作年代に関する議論

この王名表がいつ、どのような目的で制作されたかについては、依然として議論があります。最も一般的な見方は、第19王朝のラムセス2世の治世から遅くとも第20王朝にかけての間に制作されたというものです。しかし、この説には確固たる証拠があるわけではありません。別の有力な説として、時代が大きく下り、歴史叙述が盛んになった紀元前3世紀、プトレマイオス朝時代に活動した神官マネトとその学派によって編纂されたものではないか、という見方もあります。マネトの著作は現在断片的にしか伝わっていませんが、彼の王名リストとの類似性が指摘されています。発見場所は上エジプトのテーベでしたが、もしマネト説が正しければ、下エジプトのメンフィスで制作されたものが何らかの理由でテーベに移されたか、あるいはテーベで同時代の写本が作られた可能性なども考えられます。

構成概略

確認されている範囲では、王名表は以下の11欄で構成されていたと考えられています。

第1欄：エジプトの神々
第2欄：精霊、伝説上の支配者、第1王朝、第2王朝初期
第3欄：第2王朝後半～第5王朝
第4欄：第6王朝～第10王朝
第5欄：第10王朝後半～第12王朝
第6欄：第12王朝後半、第13王朝初期
第7欄：第13王朝
第8欄：第14王朝
第9欄：第14王朝の可能性
第10欄：第15王朝（ヒクソスの王たち）
* 第11欄：第16王朝（テーベを拠点とした土着王朝）

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