カルトゥーシュ

カルトゥーシュ：ファラオの名を護るヒエログリフ

カルトゥーシュとは、古代エジプト文明においてファラオの名前を囲むために用いられた独特のヒエログリフ（象形文字）です。楕円形または長方形の曲線で構成され、ファラオの称号を保護し、神聖視する役割を担っていました。現在でも、古代エジプトの壁画や遺物に残されたカルトゥーシュから、多くのファラオの名前を確認することができます。

このカルトゥーシュという名称は、フランス語で銃弾の薬莢を意味する「cartouche」に由来します。その形状が古代エジプトのヒエログリフと似ていたことから、この名称が用いられるようになったとされています。英語では「cartridge」に相当します。

しかし、カルトゥーシュは単なる装飾ではなく、深い意味を持っていました。その起源は、結び目を表すロープの象形文字「シェン」に遡ります。「シェン」は「取り囲むこと」「永遠」といった意味を持ち、カルトゥーシュはそのシェンを細長く伸ばした形をしているとされています。ファラオの名前をカルトゥーシュで囲むことで、ファラオの権威と永遠性を象徴的に表現していたと考えられます。カルトゥーシュ内にはファラオの名前が記され、その名前はレン(ren)と呼ばれていました。棒状の部分は結び目を表し、名前の読みは結び目の反対側から開始されます。

カルトゥーシュを用いてファラオ名を囲むようになったのは、エジプト古王国第4王朝のスネフェル王の時代からだとされています。それ以前の王朝では、ファラオの名前はカルトゥーシュで囲まれていませんでした。スネフェル王以降、カルトゥーシュはファラオの象徴として定着し、エジプト文明における重要な視覚的要素となりました。

カルトゥーシュのデザインは時代やファラオによって多少の違いが見られますが、基本的な形状は常に維持されました。その優雅な曲線と、ファラオの名前を保護する役割は、古代エジプト文明の芸術性と神秘性を象徴するものです。今日でも、カルトゥーシュは古代エジプト文明を象徴するモチーフとして、広く認識されています。その独特の形状と歴史的意義から、現代においても研究が続けられ、古代エジプト文明の解明に貢献しています。カルトゥーシュを通して、私たちは古代エジプトの人々の信仰や文化、そしてファラオという存在について、より深く理解することができます。

参考文献

松本　弥『図説　古代エジプト文字手帳』株式会社　弥呂久、1994年。ISBN 4946482075。

もう一度検索