トリプルクラウン (ラグビーユニオン)

ラグビーにおけるトリプルクラウン

ラグビーユニオンの国際大会であるシックス・ネイションズにおいて、「トリプルクラウン」とは、特定の4カ国間で争われる特別な栄誉を指します。この4カ国とは、イングランド、アイルランド、スコットランド、ウェールズであり、これらはラグビーの歴史において「ホームネイションズ」と呼ばれてきました。

トリプルクラウンを獲得するためには、このホームネイションズ内の対戦において、他の3カ国全てに勝利し、3戦全勝を達成する必要があります。シックス・ネイションズにはフランスとイタリアも参加していますが、トリプルクラウンはあくまでホームネイションズ間の功績として扱われるため、これら2カ国との試合結果はトリプルクラウンの行方に影響しません。また、トリプルクラウンの獲得が、必ずしもその年のシックス・ネイションズ全体の優勝を意味するわけではない点も特筆されます。

沿革

トリプルクラウンの歴史は、1883年に初めて開催されたホーム・ネーションズ・チャンピオンシップに遡ります。この第1回大会で、イングランドがホームネイションズ間の対戦で全勝を達成しました。当時はまだ「トリプルクラウン」という名称は存在しませんでしたが、これが最初のトリプルクラウン達成と見なされています。

長らくトリプルクラウンは、公式なトロフィーが授与されない「見えないカップ」と呼ばれる非公式の栄誉でした。しかし、その象徴的な価値は高く評価されていました。

トロフィーに関する動きとしては、1975年にカンブリアのヘイグ炭鉱から採掘された石炭の塊から、王冠を模したトロフィーが作られるという珍しい試みがありました。このトロフィーは、台座にイングランドのバラ、アイルランドのシャムロック、スコットランドのアザミ、プリンス・オブ・ウェールズの羽根という、各国の象徴が刻まれていました。しかし、この石炭製のトロフィーが実際に選手に授与されることはなく、現在はトゥイッケナム・スタジアムに併設されたラグビー博物館に保管されています。

公式なトロフィーが導入されたのは、比較的近年のことです。2006年の男子シックス・ネイションズからは、スコットランドのエディンバラにあるHamilton & Inches社製の銀製トロフィーが使用されるようになりました。このトロフィーは、幅42センチ、奥行き5センチ、重さ3キロの盾型デザインを特徴としています。

女子ラグビーにおいては、1996年に女子シックス・ネイションズが始まったのに伴い、男子大会と同様にトリプルクラウンのタイトルも設定されました。

主な記録

男子のトリプルクラウンにおいては、いくつかの注目すべき記録があります。連続獲得記録では、ウェールズが1976年から1979年にかけて4年連続で達成しており、イングランドも1995年から1998年にかけてこれに並ぶ4年連続達成を記録しています。これらはトリプルクラウン連続獲得の最多記録です。

一方、長くトリプルクラウンから遠ざかっていた期間も記録されています。アイルランドは、1899年から1948年までの実に49年間、この栄誉から遠ざかっていました。スコットランドもまた、1990年にファイブ・ネイションズでグランドスラムを達成した翌年である1991年以降、現在に至るまでトリプルクラウンを獲得できていない長い無冠の期間が続いています。

女子大会については、男子大会と比較して歴史が短いですが、特別なケースとして、2021年は新型コロナウイルスの影響などにより大会形式が縮小され、各チームの試合数が少なくなったため、この年に限りグランドスラムやトリプルクラウンの設定が見送られました。

トリプルクラウンは、シックス・ネイションズという大会の中で、特に伝統あるホームネイションズ間のライバル関係と歴史的な深みを示すタイトルとして、今なお重要視されています。各国のファンにとって、この栄誉の獲得は、大会全体の優勝に匹敵するほどの喜びをもたらすことも少なくありません。

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