トリュンメルバッハの滝

スイスの山々、特にアイガー、メンヒ、ユングフラウといった名峰が連なるアルプス山脈の奥深く、その岩盤の内部に隠されるように存在するのが、トリュンメルバッハの滝です。ドイツ語では「Trümmelbachfälle」と呼ばれ、「砕ける川の滝」といった意味合いを持ちます。

この滝の最も特異な点は、標高4000メートル級のこれら三つの巨峰に広がる広大な氷河の溶け水を、たった一本の流れとして集め、運び去っていることです。これはアルプスの滝の中でも非常に珍しい特徴と言えます。数千年、あるいはそれ以上の長い年月をかけて、氷河の膨大な水流と運搬された土砂が岩盤を削り出し、現在の複雑で力強い滝の地形が作り上げられました。

トリュンメルバッハの滝は、一連の流れの中に合計10段もの連続した滝を含んでいます。これらの滝は山肌の表面ではなく、まさに岩の内部を流れ落ちており、その全貌を外部から捉えることは困難です。しかし、特別に整備されたトンネルや通路、そして垂直に移動するための便利なトンネル・リフトによって、訪問者は滝のすぐそばまで安全に近づき、その轟音と振動、そして視覚的な迫力を間近で体験することができます。

滝の水源となる流域面積は広大で、約24平方キロメートルにも及びます。この広範囲にわたるエリアの約半分は、一年を通じて雪や氷河に覆われています。そのため、特に雪解けの時期や夏季の降雨後には、滝の流量は著しく増加します。平均して毎秒2万リットルもの大量の水が、勢いよく岩肌を流れ落ち、滝壺へと吸い込まれていきます。

この膨大な水の流れは、驚くべき浸食力と運搬能力を持っています。トリュンメルバッハの滝は、年間で実に2万トンを超える量の土砂や岩石といった堆積物を、上流の氷河地域から下流へと運び出しています。この絶え間ない運搬作用が、周辺の谷の地形形成にも大きく寄与していると考えられています。

トリュンメルバッハの滝へのアクセスは比較的容易です。近くの美しい谷に位置するラウターブルンネン村や、その先にあるシュテッヘルベルクから、徒歩で景色を楽しみながら向かうこともできますし、地域の公共交通機関であるポストバスを利用して快適にアクセスすることも可能です。

氷河の力によって刻まれた岩盤の中を流れ落ちるトリュンメルバッハの滝は、単なる自然の景観を超え、アルプスの壮大な地質学的営みと水の持つ圧倒的な力を肌で感じられる、他に類を見ない場所と言えるでしょう。

もう一度検索