トルコ海峡危機

トルコ海峡危機：冷戦下の緊張と国際関係の転換点

1946年、冷戦下の国際情勢は、トルコ海峡を巡る緊張によって一層複雑さを増しました。このトルコ海峡危機は、ソ連とトルコ間の領土問題、そして冷戦構造を鮮やかに浮かび上がらせた歴史的事件です。

黒海と地中海の要衝：トルコ海峡の戦略的価値

ボスポラス海峡とダーダネルス海峡は、黒海と地中海を繋ぐ唯一の水路として、古来より戦略的要衝でした。黒海沿岸諸国であるソ連、ルーマニア、ブルガリアにとって、この海峡は世界への重要なアクセスルートであり、軍事戦略上も極めて重要な位置を占めていました。海峡の支配権は、黒海における海軍力の進出・退却を左右するものでした。

第二次世界大戦後の国際情勢とソ連の圧力

第二次世界大戦中、トルコは中立を維持していましたが、大戦終結後、ソ連はトルコに対し、ボスポラス海峡とダーダネルス海峡の自由な航行を要求しました。この要求は、ソ連の黒海へのアクセスを確保し、地政学的影響力を拡大するための試みでした。ソ連の要求は、1936年に締結されたモントルー条約に反するものであり、トルコ政府はこれを拒否しました。

モントルー条約とソ連の反発

1936年のモントルー条約は、トルコ海峡の通行に関する国際協定でした。この条約では、トルコは海峡の防衛と規制権を有し、黒海沿岸諸国以外の軍艦の通過を制限することが定められていました。しかし、ソ連は、この条約に不満を持ち、トルコと共同で海峡を管理すること、あるいは条約の改定を要求しました。ソ連は、既にナチス・ドイツとの不可侵条約を締結しており、その影響も見られたと考えられています。

国境問題とソ連の領土野心

ソ連は、トルコとの国境問題も利用して圧力をかけました。ソ連は、トルコ領東アナトリア地方の一部が、歴史的にグルジア領であったと主張しました。これは、黒海と中東への影響力を高めるための策略でした。

緊張の高まりとアメリカの介入

ソ連の圧力に直面したトルコは、アメリカ合衆国に支援を求めました。アメリカは、ソ連の行動を冷戦における共産主義の拡大と捉え、トルコへの支援を決定しました。アメリカはトルコへの経済・軍事援助を行い、同時に、トルコ海峡問題におけるソ連の行動を国際社会に訴えました。アメリカ海軍の戦艦ミズーリ号のトルコへの派遣は、ソ連への強いメッセージとなりました。

NATO加盟と危機の終息

ソ連は、トルコ沿岸での軍事演習など軍事的な威圧行為を行いました。トルコはアメリカからの支援を受け、1947年にはトルーマン・ドクトリンに基づき、中立政策を放棄しました。この危機は、トルコが1952年に北大西洋条約機構（NATO）に加盟する大きな要因の一つとなりました。NATO加盟は、ソ連のトルコへの圧力を抑制し、冷戦構造の中で西側陣営への明確な立場を示すことになりました。スターリンの死後、ソ連はトルコ海峡問題に関する主張を撤回し、危機は終息しました。

余波と現代への影響

トルコ海峡危機は、冷戦における米ソ対立の象徴的な出来事であり、国際関係に大きな影響を与えました。この危機は、アメリカが冷戦における積極的な役割を担う契機となり、NATOの拡大にも繋がりました。トルコは、西側陣営の一員として、地政学的緊張の最前線に位置付けられることになりました。現在でも、トルコとロシアの間では、モントルー条約が改定されつつも、トルコ海峡をめぐる微妙なバランスが続いています。

もう一度検索