トルーソー徴候

トルーソー徴候（トルーソーちょうこう）

トルーソー徴候は、主に低カルシウム血症の患者において認められる、手や前腕の筋肉に生じる特徴的なけいれん（攣縮）を指す臨床徴候です。この徴候は、特定の操作によって誘発される潜在性のテタニー（筋肉の持続的な硬直やけいれん）を示す指標として重要視されています。ただし、健康な人でも1〜4%程度で陽性となる場合があることが知られています。

臨床的意義

この徴候の最も重要な点は、低カルシウム血症における感度の高さです。低カルシウム血症がある場合にトルーソー徴候が陽性となる確率は94%と報告されており、同じく低カルシウム血症の徴候として知られるクボステック徴候（顔面神経を叩くと顔の筋肉がぴくつく現象）の感度29%と比較して、診断的価値がはるかに高いとされています。また、テタニーなどの顕著な症状が現れるよりも早期に陽性化することが多いため、潜在的な低カルシウム血症を検出する手がかりとなります。

低カルシウム血症以外にも、トルーソー徴候は陽性となることがあります。例えば、過換気症候群による呼吸性アルカローシス（血液がアルカリ性に傾く状態）や、低マグネシウム血症などでも観察されることがあります。

誘発方法と出現する肢位

トルーソー徴候は、検査として意図的に誘発されます。典型的な方法は、患者の上腕に血圧測定に用いるマンシェットを巻き付け、患者の収縮期血圧を上回る圧力（通常は20 mmHg程度高い圧）を少なくとも3分間加えるというものです。これにより、上腕動脈の血流が一時的に遮断されます。

低カルシウム血症などがある場合、血流が遮断された状態が続くことで、血流が途絶した末梢部分の神経や筋肉の興奮性が亢進します。この亢進した神経筋の反応性によって、手や前腕の筋肉に特徴的な攣縮が生じるのです。

現れる手の形は独特です。具体的には、手首と中手指節関節（MCP関節、指の付け根の関節）が曲がり、一方で遠位指節間関節（DIP関節、指先の第一関節）と近位指節間関節（PIP関節、指の中間の関節）は伸びた状態となります。さらに、手指は内側に寄った形となります。この特異な手の形が、あたかも赤ちゃんを取り上げる助産師の手つきに似ていることから、「助産師の手」あるいはフランス語で「main d'accoucheur」とも称されます。

名称の由来

この徴候は、1861年にこの現象を初めて報告したフランスの著名な内科医、ピエール＝アルマン・トルーソー（Pierre-Armand Trousseau, 1801-1867）の名にちなんで命名されました。彼の功績をたたえ、他の病態にもその名が冠されています。

トルーソー症候群との違い

なお、同じくトルーソーの名を冠する病態として「トルーソー症候群」がありますが、これは悪性腫瘍に合併して起こる深部静脈血栓症などの血栓性疾患（血液が固まりやすくなる状態）を指します。トルーソー徴候は低カルシウム血症などによる神経筋の興奮性亢進に関連する徴候であり、トルーソー症候群とは全く異なる病態であるため、混同しないよう注意が必要です。

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