トレンチ調査 (考古学)

考古学におけるトレンチ調査

考古学におけるトレンチ（Trench）とは、遺跡の有無や遺構の分布状況を迅速かつ安価に把握するために掘られる溝のことで、試掘調査の方法の一つです。元々は塹壕を意味する言葉で、地質学においても活断層の調査などに用いられます。

概要

トレンチ調査は、遺跡の範囲を一定間隔で平行に掘ったり、古墳を縦断するように設定したりします。幅は1～2m程度が一般的で、油圧ショベルなどの重機を用いて表土を剥ぎ、遺構や自然遺構を検出します。これにより、限られた範囲で遺跡の状況を把握し、本格的な調査の範囲や遺跡の重要性を判断する材料とします。

トレンチ調査は、位置や長さ、方向を自由に設定できるため、遺跡の性格に関する仮説を検証したり、調査の戦略を立てる上で有効です。期待した遺構や遺物が発見されることもあれば、何も検出されないこともありますが、いずれの結果も調査戦略上重要な意味を持ちます。

トレンチ調査の課題と議論

一方で、トレンチ調査は開発業者による遺跡の価値判断や規模の把握を目的として行われることが多く、遺跡保護の観点から議論があります。わずかな表土除去だけで遺跡の全貌が把握できるのか、先人の活動を正確に理解できるのか、試掘調査の精度はどれだけ信用できるのかなど、埋蔵文化財の保護という点で世界的に重要な問題です。

発掘調査期間中に過去の活動を完全に再現することは難しいですが、トレンチ調査はある程度の判断材料にはなり得ます。

各国での状況

日本

日本では、1975年の文化財保護法改正により、埋蔵文化財包蔵地の周知が奨励され、トレンチ調査が効率的な試掘調査として活用されるようになりました。バックホウを用いてトレンチを掘り、遺構の有無を迅速に確認する試掘調査が全国的に行われるようになり、国庫補助制度も設けられました。これにより、市町村教育委員会による試掘・発掘調査が半ば義務化され、開発者側の発掘届提出と連動して埋蔵文化財行政がシステム化されました。

イギリス

イギリスでは、トレンチ調査の結果は開発に先立って行われる遺跡調査に必須の情報として位置づけられています。1990年のサッチャー政権時代に定められたPPG16と、British Haritage（イギリス国家遺産局）のMAP2によって法的に明文化されています。

結論

トレンチ調査は、考古学において遺跡の有無や分布を迅速に把握するための重要な手法です。しかし、その実施方法や目的によっては、遺跡の保護という観点から課題も存在します。トレンチ調査の意義を理解し、適切な方法で実施することが、埋蔵文化財の保護と研究の発展に繋がるでしょう。

関連項目

考古学
発掘調査
* 埋蔵文化財

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