トロトラスト

トロトラスト：強力な造影剤と、その恐るべき影

トロトラストは、二酸化トリウムを主成分とするX線造影剤として、かつて世界中で広く使用されていました。優れた造影効果から、様々な医療現場で用いられましたが、その後に明らかになった深刻な健康被害は、医療史における大きな教訓となっています。

トロトラストの歴史：開発から使用中止まで

二酸化トリウムは、初期には涙管造影など限定的な用途で使用されていました。その後、ゾル状の製品「ウンブラトール」が開発され、気管支造影剤として広く普及します。しかし、尿路閉塞などの副作用が報告され、改良版として開発されたのがトロトラストです。

トロトラストは、安定剤の添加により副作用を軽減したとされ、ドイツのHeyden社を中心に製造・販売されました。アメリカなどでも製造され、世界各国で使用されました。その強力な造影効果は高く評価され、1930年代から1950年代初頭にかけて、血管造影、肝臓・脾臓などの臓器撮影などに広く利用されました。日本でも1940年代まで使用され、その後も散発的に使用された記録が残っています。

しかし、使用開始当初から、晩発性の放射線障害の可能性が指摘されていました。実際に、動物実験では発がん性が確認されています。

トロトラスト沈着症：半永久的に続く放射線被曝

トロトラストの主成分である二酸化トリウムは、体内に入るとほとんど排出されず、主に肝臓などの網内皮系に蓄積します。そして、アルファ線を長期間にわたって放射し続けます。このため、肝臓がんをはじめとする悪性腫瘍、肝機能障害、血液疾患などの重篤な健康被害を引き起こすことが明らかになりました。

トロトラストによる健康被害は、投与後数十年経過してから発症するケースも多く、その長期的な影響は甚大です。

使用中止とその後

トロトラストによる健康被害が広く認識された結果、1950年代半ばには世界各国で使用が中止されました。しかし、すでにトロトラストを投与された人々は、その後も放射線被曝による健康被害のリスクと隣り合わせで生活せざるを得ない状況が続いています。

トロトラストの使用は、医療における安全性の重要性、そして長期的な健康影響を予測する必要性を改めて示す、痛ましい歴史的教訓となっています。現在も、トロトラストによる健康被害の調査や研究が続けられています。

まとめ

トロトラストは、優れた造影効果を発揮した一方で、深刻な健康被害をもたらしたX線造影剤です。その歴史は、医療における安全性の確保がいかに重要であるかを改めて示すものであり、現在も続く健康被害は、医療技術の進歩とともに、倫理的な課題をも提起し続けています。私たちは、過去の歴史から学び、医療における安全性の重要性を常に心に留めておく必要があります。

もう一度検索