トーナリズム

トーナリズム（Tonalism）は、1880年から1915年頃にかけてアメリカで隆盛した風景画の芸術運動です。フランスのバルビゾン派から影響を受け、印象派やモダニズムが台頭するまでの間、アメリカの美術界で独自の地位を築きました。日本では「色調主義」とも呼ばれます。

トーナリズムの特徴

トーナリズムは、特定の色彩や線描よりも、全体的な「色調」や「雰囲気」を重視する点が最大の特徴です。画家たちは、風景の中に存在する光と影、そして微妙な色の変化を捉え、画面全体に統一感のある雰囲気を醸し出すことを目指しました。具体的には、以下のような特徴が見られます。

中間色の多用: 明るい色よりも、灰色、茶色、青などの落ち着いた中間色を基調とします。これにより、画面全体が静かで落ち着いた雰囲気に包まれます。
輪郭の曖昧さ: 輪郭線をはっきり描くのではなく、ぼんやりと曖昧にすることで、空気感や奥行きを表現します。
陰影の重視: 光の当たり方や影の濃淡を繊細に描き出すことで、立体感や奥行きを強調します。これにより、風景に奥行きと深みが生まれます。
詩的な雰囲気: 具体的な風景を描写するだけでなく、その風景から感じられる感情や雰囲気を表現しようとしました。

トーナリズムの画家たち

トーナリズムを代表する画家としては、以下の人物が挙げられます。

ジョージ・イネス（George Inness）: トーナリズムの先駆者であり、その後の画家たちに大きな影響を与えました。宗教的な精神性と風景への愛情を組み合わせた作品で知られています。
トマス・デューイング（Thomas Dewing）: 女性像と風景を融合させた、繊細で夢幻的な作品を制作しました。独特の色彩感覚と優美な表現が特徴です。
ジェームズ・マクニール・ホイッスラー（James McNeill Whistler）: 印象派にも影響を与えた画家ですが、夜景や静かな風景を、抑制された色調で描いた作品はトーナリズムの特徴を備えています。
エドワード・スタイケン (Edward Steichen): 写真家としても著名ですが、絵画にも取り組み、トーナリズムの影響が見られます。

トーナリズムの衰退

トーナリズムは、19世紀末から20世紀初頭にかけてアメリカで広く支持されました。しかし、ヨーロッパから印象派やモダニズムの新しい芸術運動が紹介されるにつれて、その影響力は徐々に失われていきました。より明るい色彩や大胆な筆致を特徴とする印象派や、より抽象的な表現を追求するモダニズムの台頭は、トーナリズムの静かで落ち着いた雰囲気を時代遅れのものとしたのです。

トーナリズムの遺産

トーナリズムは、アメリカの美術史において、風景画の新たな可能性を切り開いた重要な運動です。その詩的な雰囲気や繊細な表現は、後の世代の画家たちにも影響を与え続け、現在でも多くの人々を魅了しています。また、写真家であるエドワード・スタイケンにも影響を与えたように、絵画の領域を超えて、視覚芸術全体に影響を与えた運動と言えるでしょう。

トーナリズムは、単なる絵画様式ではなく、風景を通して人の感情や精神性を表現しようとした、奥深い芸術運動だったと言えるでしょう。

参考資料

アメリカのトーナリズム - モントクレア美術館
askart.com
* 現代美術用語辞典

もう一度検索