トーマの心臓

『トーマの心臓』とは

『トーマの心臓』は、萩尾望都による日本の漫画作品で、1974年に『週刊少女コミック』で連載されました。ドイツのギムナジウム（高等中学）を舞台に、少年たちの複雑な感情と愛、そして宗教的なテーマを描いた作品です。その美しい絵柄と繊細な心理描写は、多くの読者の心を捉え、少女漫画の金字塔として高く評価されています。

作品概要

この物語は、フランス映画『悲しみの天使』に触発されて生まれました。作者の萩尾望都は、ドイツへの憧憬と、中学生の頃に抱いていた「いいひと」になりたいという願望を作品に投影しています。主人公である神学校の優等生が、挫折と成長を経験する姿を通して、人間の愛の本質を深く探求しています。

連載当初、読者アンケートでは最下位だったものの、作者の熱意と『ポーの一族』の人気が後押しとなり、最終回まで連載が続けられました。その後、舞台化、ノベライズ、映画化など、様々な形で展開され、多くの人々に愛され続けています。

あらすじ

物語は、雪の日にシュロッターベッツ高等中学の生徒トーマ・ヴェルナーが陸橋から転落死するところから始まります。クラス委員のユリスモール・バイハン（ユーリ）は、トーマの死が自殺であること、そしてその理由が自分にあることを知り、深いショックを受けます。

トーマは、誰からも愛される美少年でしたが、同級生との賭けがきっかけでユーリに拒絶された過去がありました。トーマの遺書によって、彼が自分を愛していたことを知ったユーリは、その愛を拒否しますが、直後にトーマと瓜二つのエーリク・フリューリンクが転校してきます。ユーリはエーリクにトーマを重ねてしまい、複雑な感情を抱くようになります。

エーリクの母親の事故死をきっかけに、ユーリとエーリクは次第に心を通わせていきますが、ユーリは過去のトラウマから愛を信じることができませんでした。しかし、エーリクの献身的な働きかけにより、ユーリはついにトーマへの愛と遺書の真の意味を理解し、過去の秘密を打ち明けます。そして、神の愛を悟ったユーリは神学校へ転校していくという物語です。

主要登場人物

ユリスモール・バイハン (ユーリ)：品行方正で成績優秀なクラス委員長。過去のトラウマから心を閉ざしている。
トーマ・ヴェルナー：誰からも愛される美少年。ユーリを愛し、自殺する。
エーリク・フリューリンク：トーマと瓜二つの転校生。自由奔放で、ユーリの心を解き放とうとする。
オスカー・ライザー：ユーリの同級生で親友。不良っぽいところもあるが、面倒見が良い。
サイフリート・ガスト：過去にユーリに暴力を振るった不良生徒。物語に暗い影を落とす。

関連作品

番外編

「訪問者」：オスカー・ライザーがシュロッターベッツ・ギムナジウムに来るまでの物語。
「湖畔にて - エーリク 十四と半分の年の夏」：『トーマの心臓』の後日談。

姉妹編

『11月のギムナジウム』：『トーマの心臓』の原型とされる作品。
「小鳥の巣」：『ポーの一族』シリーズの一編で、ギムナジウムを舞台にした作品。


これらの関連作品は、『トーマの心臓』の世界観をさらに深く理解するための重要な要素となっています。

舞台化

劇団Studio Lifeによって何度も舞台化されており、耽美的な世界観が多くの観客を魅了しています。特に、男性のみの劇団で少年たちの繊細な感情を表現している点が特徴です。連鎖公演という形で、複数の作品を同時に上演することもあります。

映画化

1988年には、『1999年の夏休み』として映画化されました。この作品は、『トーマの心臓』を翻案したもので、少年役を女性が演じるというユニークな演出がされています。また、脚本家によるノベライズも刊行されています。

作品が与えた影響

『トーマの心臓』は、その後の様々な作品に影響を与えており、文学作品や漫画、アニメーションなど、幅広いジャンルにその痕跡を見ることができます。

恩田陸の小説『ネバーランド』は、『トーマの心臓』から着想を得ています。
* 森奈津子の小説『踊るギムナジウム』は、ギムナジウム物のパロディとして、本作へのオマージュが込められています。

まとめ

『トーマの心臓』は、単なる少女漫画の枠を超え、人間の愛や心の葛藤、そして成長という普遍的なテーマを深く掘り下げた作品です。その美しい絵柄と繊細な心理描写、そして、魅力的な登場人物たちは、多くの読者を魅了し、時代を超えて読み継がれる名作として、これからも輝き続けるでしょう。

この作品を通して、ぜひ「愛」について深く考えてみてください。

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