トーマス・ペティグルー

トーマス・ペティグルー：ミイラに魅せられた外科医

トーマス・ペティグルー（Thomas Joseph Pettigrew, 1791年 - 1865年）は、19世紀のイギリスにおいて、外科医、古物収集家、そして古代エジプトのミイラ研究家として異彩を放った人物です。「ミイラ男（Mummy Pettigrew）」という異名を持つ彼は、その独特な趣味と研究活動でロンドンの社交界でも知られていました。

外科医としてのキャリア

ペティグルーは1791年にロンドンで生まれ、父親も海軍軍医という医療一家に育ちました。幼い頃から父の仕事を手伝いながら外科医療を学び、後に行政区病院で見習いとして経験を積みます。その後、王立外科医学院やロンドン医療社会学会で順調にキャリアを重ね、ケント公やサセックス公といった貴族の外科医を務めるまでになりました。しかし、彼の関心は次第に医療の枠を超え、古物研究へと向かっていきます。

古物研究とミイラへの情熱

1830年代に入ると、ペティグルーは古物研究、特にエジプトのミイラに対する関心を深めていきます。1834年には、エジプトのミイラに関する歴史的著作として高く評価される『History of Egyptian Mummies（エジプトミイラの歴史）』を出版。この著書は、「英語で書かれた歴史的な原典」と評され、彼のミイラ研究における重要な業績となりました。また、ペティグルーは私的な夜会を頻繁に開催し、ミイラやその他の珍しい博物学的標本を展示して来客を楽しませることで、ロンドンの社交界で一躍有名になりました。

ハミルトン公のミイラ化

ペティグルーのミイラ研究への情熱は、第10代ハミルトン公アレクサンダー・ハミルトンをも魅了しました。ハミルトン公はペティグルーの研究に強い関心を持ち、自身の死後、彼の手でミイラ化されることを希望しました。1852年にハミルトン公が亡くなると、その遺言通り、ペティグルーによってミイラ化が施され、サルコファガスに納められて領地に埋葬されました。

晩年と死

1843年にイギリス考古学会が設立されると、ペティグルーは会計役としてその運営に携わりました。1854年に妻を亡くした後は、医学の世界から完全に身を引き、考古学の研究に没頭しました。1865年にペティグルーは死去し、その遺体はロンドンのブロンプトン墓地に埋葬されました。

ペティグルーは、外科医としての知識と古物研究への情熱を組み合わせ、ミイラ研究という独特な分野でその名を歴史に刻みました。彼の生涯は、単なる研究者としてだけでなく、社交界における異端児としても、多くの人々に興味を持たれる存在でした。彼の業績は、現在でもエジプトのミイラ研究における重要な資料として参照されています。

出典

* ウィリアム・H・ペック (1998). “Mummies of Ancient Egypt”. In Aidan, Eve Cockburn and Reyman, Theodore A.. Mummies, Disease and Ancient Culture. Cambridge University Press

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