ドイツの行政管区

ドイツの県（Regierungsbezirk）について

ドイツの行政区分において、県（Regierungsbezirk） は州（Land）の下位に位置する重要な単位です。この県は、州政府の内務省を上級官庁とする県庁（Regierungspräsidium） によって行政が所管され、県知事（Regierungspräsident） がその監督を行います。県知事は公選ではなく、州政府から派遣される行政官であり、県行政長官とも呼ばれます。現在、Regierungsbezirk は「行政管区」や「行政区域」とも訳されます。

県（Regierungsbezirk）の歴史

県という行政区分の歴史は、19世紀初頭のプロイセン王国に遡ります。1808年から1816年にかけて、プロイセン王国は領土を州（Provinz）とその下位の県（Regierungsbezirk）に区分しました。1906年には35の県が存在し、これが Regierungsbezirk の最初の用例とされています。

1871年に建国されたドイツ国では、各構成邦国（Bundesstaat）にも同様の行政区分が存在しましたが、その名称は様々でした。例えば、バイエルン王国やヴュルテンベルク王国では Kreis、ヘッセン大公国では Provinz、バーデン大公国では Landeskommissarischer Bezirk、ザクセン王国では Kreishauptmannschaft と呼ばれていました。

1933年に始まるナチス・ドイツ時代には、各州の主権がドイツ国に委譲され、プロイセン式の Regierungsbezirk という名称に全土で統一されました。

第二次世界大戦後、ドイツ西部では、イギリスやフランスなどの占領国の影響を受け、県（Regierungsbezirk）が復活しました。県行政を所管する州政府の中級官庁（県庁）は、州によって異なる名称で呼ばれています。例えば、バイエルン州では Regierung、バーデン＝ヴュルテンベルク州、ザクセン州、ヘッセン州では Regierungspräsidium、ノルトライン＝ヴェストファーレン州では Bezirksregierung となっています。

一方、ソ連に占領されていたドイツ東部では、1949年にドイツ民主共和国が建国され、1952年の行政改革で州が廃止されました。代わりに、東ベルリンを除く全域が14の Bezirk（県）に細分化されました。これらの行政区分は、戦前の Regierungsbezirk とは異なるものでした。1990年のドイツ再統一後、旧ドイツ民主共和国の領域に新たに設置された5州のうち、ザクセン州とザクセン＝アンハルト州に Regierungsbezirk が復活しました。

現在の県（Regierungsbezirk）

現在、以下の州に県が存在します。

バーデン＝ヴュルテンベルク州: フライブルク県、カールスルーエ県、シュトゥットガルト県、テュービンゲン県
バイエルン州: オーバーバイエルン県、ニーダーバイエルン県、オーバーフランケン県、ミッテルフランケン県、ウンターフランケン県、オーバープファルツ県、シュヴァーベン県
ヘッセン州: ダルムシュタット県、ギーセン県、カッセル県
ノルトライン＝ヴェストファーレン州: アルンスベルク県、デトモルト県、デュッセルドルフ県、ケルン県、ミュンスター県

県が解消された州

かつては存在しましたが、現在は県が解消された州もあります。

ラインラント＝プファルツ州（1999年解消）
ザクセン＝アンハルト州（2003年解消）
ニーダーザクセン州（2004年解消）
ザクセン州（2012年解消）：ケムニッツ県、ドレスデン県、ライプツィヒ県

かつて存在した県

過去には、様々な理由で解消された県が多数存在します。以下にその一部を列挙します。

1944年以前に解消された県
ベルリン県（ブランデンブルク州、1822年解消）
クレーヴェ県（ユーリヒ＝クレーヴェ＝ベルク州、1822年解消）
ライヒェンバッハ県（シュレージエン州、1932年解消）
シュトラールズント県（ポンメルン州、1932年解消）
ヴェストプロイセン県（オストプロイセン州、1939年解消）
ヴェルサイユ条約によりポーランドに割譲され、後に再占領、再び喪失した県
ブロンベルク県（ポーゼン州/ダンツィヒ＝ヴェストプロイセン）
ダンツィヒ県（ヴェストプロイセン州/ダンツィヒ＝ヴェストプロイセン）
マリーエンヴェルダー県（ヴェストプロイセン州/ダンツィヒ＝ヴェストプロイセン）
ポーゼン県（ポーゼン州/ヴァルテラント）
1939年にポーランドからドイツに併合され、後に解消された県
ホーエンザルツァ県（ヴァルテラント）
カトヴィッツ県（シュレージエン州）
リッツマンシュタット県（ヴァルテラント、1941年まではカーリシュ県と称した）
ツィヘナウ県（オストプロイセン州）
1945年にドイツ東部がソ連、ポーランドに占領されたために消失した県
アレンシュタイン県（オストプロイセン州）
ブレスラウ県（シュレージエン州）
グムビネン県（オストプロイセン州）
ケスリーン県（ポンメルン州）
ケーニヒスベルク県（オストプロイセン州）
リーグニッツ県（シュレージエン州）
オッペルン県（シュレージエン州）
シュナイデミュール県（ポンメルン州）
シュテティーン県（ポンメルン州）
1945年の西側占領軍地域の行政改革により解消された県
ミンデン県（ノルトライン＝ヴェストファーレン州、1947年）
ジークマリンゲン県（ホーエンツォレルン州、1946年）
1945年のソ連軍占領地域の行政改革により、あるいは1952年のドイツ民主共和国の行政改革により解消された県
エアフルト県（テューリンゲン州、1945年）
フランクフルト・アン・デア・オーダー県（ブランデンブルク州、1952年）
ハレ県（ザクセン＝アンハルト州、1952年、1990年の再統一後復活）
マクデブルク県（ザクセン＝アンハルト州、1952年、1990年の再統一後復活）
メルゼブルク県（ハレ＝メルゼブルク州、1945年）
ポツダム県（ブランデンブルク州、1952年）
1952年に連合軍占領下からドイツ連邦共和国に移り、バーデン＝ヴュルテンベルク州が創設された際に改名
バーデン県（Baden, Landesbezirk バーデン＝ヴュルテンベルク州）
ヴュルテンベルク県（Württemberg, Landesbezirk バーデン＝ヴュルテンベルク州）

参考文献

『ナチス・ドキュメント 1933-1945』ワルター・ホーファー、救仁郷　繁（訳）、論争社、1960年
『ドイツ現代史』村瀬興雄、東京大学出版会、1980年
『ドイツの地方自治』（財）自治体国際化協会、2003年