帝国クライス

帝国クライスとは

帝国クライス（Reichskreis）は、神聖ローマ帝国において16世紀に確立された統治システムです。帝国を複数の帝国等族を含む地域に分割し、地域内の治安維持を目的としていました。「クライス（Kreis）」は現在も行政単位として使用されており、「郡」と訳されます。

帝国クライス制度の概要

帝国クライス制度は、地域内の治安維持活動を強化し、大規模な平和破壊活動に対処するために導入されました。これにより、小規模な等族では対応が困難だった事態にも対応できるようになり、無用な戦禍の拡大を防ぐことが可能となりました。また、クライス会議を通じて地域行政の調整が行われ、帝国の連邦的性格を決定づけました。

この制度は、1555年のアウクスブルク帝国議会で審議され、帝国執行令によって一応の完成を見ました。しかし、帝国等族と皇帝の中間に位置するシステムであったため、その位置づけは時代とともに変遷しました。例えば、当初は管轄外であった防衛も、帝国末期には担うようになりました。

帝国クライス制度の成立

帝国をいくつかのブロックに分け、地域の治安維持に当たらせるという発想は、13世紀の皇帝ルドルフ1世の時代に遡ります。1287年、ルドルフは公共平和のために地域に基づき領邦をグループ化する試みを行いました。これは、大空位時代の政治的混乱から治安が悪化したことにより、帝国等族間の盟約を帝国レベルで整備し、安定を図るものでした。

14世紀には、ヴェンツェル帝が帝国平和盟約を発令し、帝国を4つの党派に分け、相互保護を行うという内容を盛り込みましたが、実効性を持たずに終わりました。その後、15世紀に入り、皇帝ジギスムントが帝国改造を掲げ、帝国を4つの地域に分け、国王が派遣する指揮官が平和維持を行う政策を提案しましたが、諸侯の反発により実現しませんでした。

15世紀後半、マクシミリアン1世が帝位に就くと、帝国改造の機運が高まりました。1495年には「永久ラント平和令」が決議され、その実務機関として帝国最高法院が設けられました。16世紀初頭には、帝国統治院が設けられ、その参議官任命のための地理的区分として6つのクライスが設定されました。そして、1512年の帝国議会で、帝国クライス構想が合意され、治安維持機構としての帝国クライスが成立しました。

帝国クライスの権限拡充

16世紀半ば、皇帝カール5世は帝国統治院を復活させ、クライスの権限を増強しました。クライスの指揮官を恒常職とし、平和破壊活動の現行犯に対してはクライスレベルで処遇を決定することを可能としました。

1530年代には、対オスマン帝国軍の編成に際し、帝国等族の分担兵がクライス毎に編成されるようになり、クライスは軍事的な役割も担うようになりました。また、帝国一般直接税の徴収業務をクライスが行うこととなり、クライスは財政基盤を持つ自立的存在となっていきました。

帝国執行令とクライス制度

1555年のアウクスブルク帝国議会では、帝国執行令が発令され、クライス制度が規定されました。帝国執行令では、平和破壊活動への対処、近隣クライスの協力、大規模な破壊活動への対処などが定められました。また、クライスの組織として、長官、補佐官、公示事項担当諸侯などが登場しました。

クライス会議は、公示事項担当諸侯が招集権を有するクライスの決議機関であり、全等族が参加しました。また、クライス軍事評議会は、有事の際にクライス軍の招集や他のクライスへの援助要請を協議する目的でクライス長官が招集した会議です。

帝国執行令以後の変遷

16世紀後半には、グルムバッハ事件や関税問題などを通じて、クライスの権限がさらに拡大していきました。17世紀には、三十年戦争が勃発し、帝国クライスは中立を保とうとしましたが、最終的には戦争に巻き込まれました。ヴェストファーレン条約および帝国最終決定は、帝国執行令を再確認しましたが、帝国議会が形骸化するにつれて、クライスが行政運営の実体を担うようになっていきました。

ルイ14世の治世下では、フランスからの圧力が強まり、地理的に近い帝国クライスは対外防衛力としての結束を強化する必要性を自覚しました。しかし、18世紀には、ブランデンブルク＝プロイセンの巨大化やナポレオン戦争に対応できず、帝国クライス制度はその役割を終えました。

各クライスの成員一覧

帝国クライスは、バイエルン、シュヴァーベン、オーバーライン、ヴェストファーレン、フランケン、ニーダーザクセン、ブルグント、オーストリア、オーバーザクセン、クールラインの10のクライスに分かれていました。各クライスは、それぞれ異なる特徴を持っており、帝国における役割も異なっていました。

まとめ

帝国クライスは、神聖ローマ帝国の統治システムとして、地域内の治安維持に重要な役割を果たしました。その制度は、時代とともに変遷し、権限も拡大していきましたが、最終的には時代の変化に対応できず、その役割を終えました。

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